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「ねぇ、あなた年はいくつ?」 「もうすぐ二十六っす」  彼女は頬杖をつき、目を細めて僕の顔を見つめた。 「そうなのね…… 私より五つ年下か…… 弟と一緒だわ……」  その言葉を聞いて、心臓が微かに跳ねた。  彼女は僕より五つ年上……  僕の姉と同い年……  アロハシャツを着た女性スタッフが、木製の器に盛り付けられたカレーライスを運んできた。スパイシーなカレーの香り、それにトッピングされているフライの香ばしい匂いが加わり、食欲を刺激する。  それは姉が作るような素朴な感じではなかった。それでも失われし日の思い出が蘇る。彼女と向き合ってカレーライスを食べていたら、特別な感情が湧いてきた。向き合って食べるカレーライス、懐かしい思い出。姉と過ごした日々、いつまでも続くと思っていた日常。 「いただきます!」  思い切り大きく空けた口に、スプーンで掬ったカレーを流し込むと、その様子をじっと見つめていた彼女がクスクスと笑い出した。 「何かおかしいっすか?」 「思い出しちゃったの、弟の事……」 「似てるんすか?」 「食べる時の仕草がね、それに喋り方もそっくり……」  僕の事を見て、嬉しそうに笑う彼女が、姉と重なって見えた。顔なんか全然似ていない、スタイルも服装も。彼女は姉よりもずっと垢抜けていて、遥かに美人だと思う。だけど、それなのに何故か、姉と姿が被って見えた。  「ねぇ、これ食べ終えたらさ、もう少し走らない?」  「いいっすね! どこまでも、姐さんに付いて行きますよ……」  おだけた態度でそう言うと、彼女の笑顔から涙が一粒、ポロリと零れ落ちた。涙の意味は分からなかったが、その涙に僕の心が揺さぶられる。それが彼女に対する恋のせいなのか、それとも姉を偲ぶ気持ちなのか、そこは良く分からない。だけど、彼女と一緒に居たいと言う気持ちは、疑いようの無いものだった。  もっと彼女の事を知りたい。もっと彼女に近づきたい。いつまでも、傍に居たい。赤信号の交差点で隣り合っただけの彼女が、心の中で大きく膨らんでいく。  食事を終えて、駐車場まで並んで歩いていたら、彼女の手が触れた。その手を僕はそっと握る。触れているか触れていないか分からないほど、そっと。  彼女ははにかむように笑った。そして僕の手を強く握る。そっと、ではなく、ぎゅっと。何秒間か見つめ合った僕達は、すっと手を離し、それぞれの車に乗り込んだ。  タイヤを軋ませてレストランの駐車場から出て行く赤のBMW、それをすかさず追いかける赤のユーノス・ロードスター。少し近づいた僕と彼女、二人のドライブが始まる。
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