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 交差点で隣に並んだオープンカー、ハンドルを握る彼の横顔を見て、ハッとした。裕貴(ゆうき)、私の5つ下の弟……  裕貴に良く似た雰囲気を持つ彼は、姿だけではなく喋り方までそっくりだった。コンビニの駐車場、人懐こい笑顔を浮かべて話す彼に、私は惹かれた。  赤いオープンのBMWと彼のユーノス・ロードスター、2台並んで止まるその姿が、ただの偶然には思えなくて、彼をドライブに誘った。それは軽い気持ちだった。何となく一人で車を走らせるのが寂しくて、誰かと一緒に居たかっただけなのだと思う。  付いて来て、と言った私に、どこまでも付いて行きます、と言う彼。そんな彼の温順な態度に、私の心は揺れ動いた。  鎌倉の海辺にあるレストランに入った。そこは誕生祝に裕貴を連れて行った思い出のレストランだった。  当時の裕貴は十六歳、バイクの免許を取得したばかりで、それを得意げに話していた。だけど私は、弟がバイクに乗るのに反対だったから、随分と言い争ったのを昨日の事のように思い出す。  裕貴は、風を切って走るのがバイクの良いところだ、と言っていた。風を切って走るなら、オープンカーで良いじゃないか、と言い張る私とは、どこまで行っても平行線で、ちっとも話しが噛み合わなかった。  だけど大人になっていく裕貴が、心のどこかでは嬉しかった。恥ずかしがり屋で私の後ろに隠れ、どこへ行くのにも、ぴったりとくっ付いて来た裕貴が、一人立ちして行く。それは姉として微笑ましい事だった。でも一方で私から離れて行ってしまうのが、心のどこかで寂しく思えていたのも本当だ。  目の前で、大きな口を空けて、無邪気にカレーを食べる裕貴は、十六歳とは言え、まだ子供っぽいのに、言う事も、やる事も、確実に成長していた。  いつか私から離れてしまう、そんな事を考える度に、胸の奥に痛みが走ったものだ。
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