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 裕貴の二十歳の誕生日がやって来た時、鎌倉にカレーを食べに行こう、と誘った。だけど裕貴は首を縦に振ってくれなかった。それまでは毎年、嬉しそうに付いて来てくれたのに。  彼女が出来た、少し気まずそうに話す裕貴に、なんだかフラれたような気分になった。失恋でもしたかのように、私の心にはポッカリと穴が空いた。裕貴は弟、いつかはこういう日がやって来ると分かっていたのに。  目の前で、大きな口を空けてカレーを食べる彼が、裕貴と重なって見えた。お腹が空いていると言った彼と食事をして、それだけで別れる筈だった。だけど赤信号で隣り合っただけの彼が、とても他人には思えなくて、もう少し一緒に居たい、と言う気持ちが湧いて来た。そして、彼をまた誘ってしまう。  たぶん、彼に恋心を抱いている訳ではないと思う。今日が特別な日だから、弟と彼を重ね合わせて一緒に居たいと思っているだけなんだ。だけど弟の彼女に嫉妬していた私にしてみたら、彼の存在はもしかして……  レストランを出て、不意に彼の手が触れた。彼は優しく、遠慮がちに私の手を握った。すぐに離れてしまいそうな程に頼りない彼の手の平。私は、彼の手を強く握った。目が合った瞬間、心の中で歯車が動き出す音が聞えたような気がする。  鎌倉を出発して、湘南海岸を走りぬけ、西湘バイパスへと車は走る。悪ふざけをして彼が隣に並びかけてくると、私はアクセルを踏み込んで前へ出る。彼は必死に追い掛けてきて、また並びかけてくる。悪戯好きだった裕貴と彼のしたり顔が重なった。
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