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その夜、
帰ってきた響に昼間の出来事を話す。
響は一瞬驚いて、すぐに呆れ顔で空に言う。
「何でダメって言うのに一人で外出るんだろうなぁ。ちょっと雅ちゃんに言っていけばいいだろう、心配掛けるなよ。今回は椿さんにもだろ?」
月明かりだけの暗いリビングで、空はソファに座る響の足の間にチョコンと収まっている。
「あい」
「まったく……」
「だって雅ちゃん仕事して忙しそうにしてたし、珈琲飲むくらい大丈夫かなって思って…反省してます」
「ほんとだぞ」
響は大きくため息を付いた。
「でもあの子のことはちょっと気になってたから、話ができてよかった」
「そうか」
「人ってさ、関わった人で生き方が変わって行ってしまうよね」
「そうだな」
「あの子を取り巻く出逢いはあんまり良くなかったんだよね」
空はしょんぼりしたアリサの顔を思い出した。
「まだ若いからいくらでもやり直せるさ」
「僕は、ホントに出逢いに恵まれてると思うよ」
「そうだな、雅ちゃんに慎吾くんに今日声を掛けてくれた椿さんとだって掛け替えのない出逢いだな」
「それはそうだけど、一番はひぃくんだよ。そのお陰で瑠璃ちゃんにも会えた。そういう意味でいうと兄さんにも感謝しないといけないかな」
「嬉しいこと言ってくれるな、でも崇はいいだろう。崇がいなくても俺は絶対空と逢っていたと思うぞ」
「え〜デレるぅ〜」
背中を響の胸にピッタリ合わせる。
「今日はさ、満月だからひぃくんの気持ちも高まってるんだね」
「狼男かよ」
「ここに一人で暮らし始めた時、寂しくてベランダでよく星や月を見たよ。」
その頃を思い出してウットリ窓の外を見る。
「確かにそこからは月がよく見えるな」
大きな窓の半開きになっているカーテンの向こうにまん丸の月が見える。
「新月の時には、ひぃくんとまた会えますようにってお願いしたよ」
「もぉ〜そーらー」
堪らず後ろから抱きしめる。
『チュッチュ』
空の後頭部にキスの雨を降らす。
「そうしたら、まず雅ちゃんが来たけどね」
「新月スゲーな」
「え? アハハハ、何言ってんの」
「イヤだって、とんでもない出逢い寄こしたじゃないか……」
「そうだよね、月の引力はすごいんだよ。もはや雅ちゃんの居ない生活なんて考えられないもんね」
指を絡める。
「でも、ソロソロ身の回りのことくらい出来るようにならないと、いつまでも雅ちゃんがいると思うなよ」
「えー、いつまでも居て欲しい。」
「そうだなぁ、じゃあ次の新月には『雅ちゃんの永久就職を願うしかないな。」
「そうするよ」
「ハハハ。慎吾くんが何て言うかな」
「あのさ、ひぃくん、僕ね…すごく幸せだよ」
「俺もだぞ」
「もう絶対僕を離さないでね」
空は振り返り、後ろを見上げてすぐ側にある響の唇にゆっくり自分の唇を重ねていった。
end・・・・
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