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「馬で駆けるなんて久し振りね」
やけに清々しい笑顔でゴンザレスが言う。
わかりやすい反応だ。きっと長年拗らせた想いがルイーゼの父の奮闘により昇華されたのだろう。
「すべてルイーゼのおかげだ。僕も、お前もな」
「ほんとね。あの子は不思議な子だわ……アンタ、なにがあってもあの子を放すんじゃないわよ」
「わかってる。言われなくても彼女は僕の唯一だ」
レイナルドは、これまでの人生を振り返る。
生きていたい訳でも、死にたい訳でもなかった。
刺客の数が増え過ぎて、いよいよ身を隠しながら生きなければならなくなり、母に“行こう”と手を差し出された日、僕は何故かその手を取ることを拒んだ。
今思えば、すべてはルイーゼに会うためだったのかもしれない。
だから許してルイーゼ。君は優しい人だから、きっとこんなことは望まないかもしれない。でも言ったよね?
僕にとっての君の価値だけ、美味しさの分だけあいつに罰を与えていいって。
信じられないくらい美味しかったんだ。今まで食べたどんなご馳走よりも美味しくて、蕩けるように甘かった。こんなご馳走はきっと世界のすべてを手に入れたって食べることはできない。
だから、いいよね?
「おい!!あれはなんだ!?」
フォルメントス王城の見張りが、砂埃を立てながら真っ直ぐに向かってくる一陣を見つけ、慌てて警鐘を鳴らす。
混乱する城内に押し入ったレイナルドは、応戦しようと押し寄せる王城の兵士たちに向かって高らかに宣言した。
「これより王妃ヴァレンティナと第一王子アルセニオをこの第二王子レイナルド暗殺未遂の罪により捕縛する!」
レイナルドの言葉で、これが現政権への謀反だと思っていた兵士たちはざわめき、足を止めた。
「我らは無益な血を流すことは望まない。だが邪魔をするようであれば容赦しない!」
兵士たちは押し黙った。王族に剣を向ければ死罪だ。しかも上からはなんの指示も来ていない。
彼らは少しの間逡巡し、やがて道を開けた。
「行くぞ!目標以外にはなるべく手を出すな!」
レイナルドたちはヴァレンティナとアルセニオの宮を目指して駆けた。
その頃アルセニオは、人払いをした部屋で愛人のカミラとの逢瀬を楽しんでいた。
「アルセニオ様……なんだか外が騒がしくありませんか?」
「どうせ兵士たちが訓練でもしてるんだろ。まったくうるさいばかりで使えない奴らだ。そんなことよりもカミラ、早くして」
アルセニオは下穿きを脱ぎ、股を開いて長椅子にもたれ掛かる。
カミラは慣れた様子でアルセニオの股の前に膝をついた。
「アルセニオ様ったら。ルイーゼ様がいなくなってしまったというのにこんなことをしていてもよろしいのですか?」
「父上が放っておけというんだからしょうがないだろ?それにあんな役立たず……女としても魅力がない。いなくなってせいせいする」
「では早く離縁なさって下さいませ。カミラはもう待てませんわ」
カミラはわざとらしく頬を膨らませ、上目遣いでアルセニオを見る。
「わかってる。あと少しだ。アヴィラスを手に入れたらお前を妃に迎えるから」
「約束ですわよ。じゃあ今日はいっぱい可愛がって差し上げますわ」
期待に満ち溢れるアルセニオとは反対に、カミラが若干うんざりしたような顔をして手を伸ばした時だった。
「!?」
扉が蹴破られ、あっという間に二人は兵士に囲まれた。
「な、何だお前たち!私を誰だと思っている!」
慌てて下穿きを履こうとするアルセニオに向かって一人の男が歩いて来る。
カミラは目を疑った。輝く銀髪に透き通る青灰色の瞳。水分をたっぷりと含んだ艷やかな肌はとても男とは思えない。
カミラは床に座り込み、見入った。
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