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「冗談でしょ……」
イザベラさんの呟きは、帰ったはずの私が戻ってきたことに対してなのか。それともレイナルド殿下ががっちりと後ろから私を抱き締めて、首筋の匂いをくんかくんかと嗅いでいることなのか。それともその両方か。
「なんでせっかく帰った子をまた連れ帰ってくるのよ!?」
「お嫁さんが酔っ払いに性接待を強要されているというのに黙って見ていられるか。お前、そんな当たり前の感情もわからないのか」
その酔っ払いは正真正銘ルイーゼの夫であり、そして夫の場合は性接待とは呼べないのではないかと思ったが、それはイザベラが代弁してくれた。
「夫が妻を求めてくるのは当たり前のことでしょうが!」
「夫ならなぜ妻以外にも手を出すのだ。それに僕のお嫁さんはこんなにも美しいんだぞ?あんな垂れ乳女とは比べ物にならないくらい」
「へ……?」
聞き捨てならない一文に、思わず変な声が出てしまった。
(垂れ乳女とは?)
「しかもさんざん乳を触りまくってさあ挿入るぞという時に、月のものがきていたことに気付いて怯むなどと……」
まるで一部始終を見てきたかのような物言いだ。……まさか本当に見てきたのだろうか。
しかしあの身のこなしだ。彼ならやれないことはないだろう。やってないと信じたいけど、きっとやったに違いない。
「あら、月のものがきた女性の身体を気遣って途中でやめるなんて、あの王子も意外と優しいところがあるじゃない」
「それは違う。あいつ、汚らわしいものを見るような目をしていた。おそらく自分が汚れることを嫌がったのだ」
いやあの、二人とも平然と話してますけどそれ私の夫とその愛人の話ですよね?
「愛する女性の経血のどこが汚いと言うのだ。元は子を産み育てるための素晴らしいものだぞ。まったく、いくら異母兄といえど同じ血が流れることすら嫌悪してしまうほどの屑だ。僕はお嫁の経血であれば身体中塗りたくってくれたって構わない」
いやそれちょっとどころかかなりおかしい人ですから。
しかしいつもは来ないアルセニオが、今夜に限ってルイーゼの元を訪れたのはそういう理由だったのか。
(ではカミラ様はまだ懐妊していないのね)
少しだけホッとする。もしカミラに子ができれば、ルイーゼの扱いは今より更に酷いものになるだろうから。
不安そうに俯くルイーゼに気付いたレイナルドが優しく声をかける。
「心配しなくていい。お嫁さんを守るのは夫の役目だ」
「守るったって、引きこもりのあんたがどうやって守るのよ。しかも兄嫁よ?」
「あんな糸屑のようなものしか持ち合わせない男に彼女は渡せない」
(そこもちゃんと見てたんですね……)
アルセニオの分身をミミズと評したルイーゼだったが、レイナルドからするとあのサイズではもはや生き物と肩を並べることすらおこがましいということなのだろう。
あの時、自分は夜着を脱がなくて本当に良かったとルイーゼは心の底から思った。
「イザベラ、僕は彼女と話すことがある。決して邪魔をするな」
「お嫁ちゃんを捜して捜索隊でも来たらどうするのよ」
「適当に眠らせておけばいい。お前、最近太り気味だぞ。いい運動だろう?」
そしてレイナルドは、イザベラのこめかみに太い青筋が浮いたのを確認すると、再びルイーゼを抱き上げ寝室へと向かった。
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