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13
「ゴンザレス!!」
「ちょっと!その名前で呼ばないでって言ってるでしょ!殺すわよ!」
眠ってしまったルイーゼを起こさぬよう静かに寝室を出てきたレイナルドが食堂を訪れると
、イザベラこと本名ゴンザレスは、巨大な剣の刀身を研いでいる最中だった。
「なんだ。やっぱり来たのか」
あのヴァレンティナのことだ。ルイーゼが消えたのをこれ幸いと、レイナルドに誘拐の嫌疑をかけに来るかもしれないと思っていた。
「残念だけどまだよ。来るとしたらこれからでしょ?アンタもなんだか本気みたいだし。備えあれば憂いなしってね」
レイナルドがこの離宮に引きこもるようになってから、ある日突然現れた色々と衝撃的な男ゴンザレス。
聞けば父親が選任した護衛だという。
顎割れのフリフリレースのおっさんなんて冗談じゃないと断固拒否したのだが、飯は美味いし洗濯はパリッと皺なく仕上げてきておまけにいい匂いだし、掃除も行き届いているときた。
快適すぎる環境を提供されたレイナルドは、なにも言えなくなってしまったのだ。
そしてなにより彼は強かった。
これまでヴァレンティナが放った刺客は山ほどやって来たが、すべてこの最強の家政婦ゴンザレスの前にその命を散らして行った。まさかドレス姿のおっさんに殺されるなんて、刺客もさぞかし無念だったことだろう。
なんでこんな男を自分の護衛につけたのか。父親の真意はわからなかったが彼の存在は今のレイナルドには有り難かった。
「明日父上に会いに行く。だから僕の髪を切ってくれ。あと服も正装の用意を頼む」
「ルイーゼちゃんのは?」
「……ルイーゼちゃん……?」
レイナルドの身体から尋常でない殺気と闘気が溢れ出す。
「おいゴンザレス、いくら彼女の性格が女神のように優しいからといって調子に乗るなよ。お前のようなただの変態オヤジが気安く呼んでいい名前じゃないんだわかったな……!」
「あーやだやだ、童貞は心が狭くて嫌だわぁ。……でもアンタ、なんでそんなに熱くなってんの?そんなにルイーゼちゃんに惚れちゃったの?」
「だから、彼女の名を気安く呼ぶなと言っているだろ!……自分でもわからない。でも夢中なんだ」
一目惚れとも違う。でも彼女に襲われて初めて唇が重なった時、嫌じゃなかった。
それよりももっともっと深いところで繋がりたい。そんな気持ちになってしまった。
生まれて初めて感じた胸の高鳴りと怒張する分身。
「運命は一瞬しか選択の余地をくれない時がある。僕のような人間には特にね。だがすぐにわかった。彼女なんだ。だから絶対に逃さない。絶対に」
「そうね……運命の相手は身体が本能的に感知するって言うし。本能丸出しで生きてるあんたにはぴったりな理由ね」
「王座に興味はない。でも彼女を幸せにできるならその座に就いてもいい」
「ふぅん。アンタの趣味の悪い父親は、一体なんて言うかしら」
「文句なんて言わせない。絶対に」
父は昔から、人が醜く争う様をまるで観劇でもするかのように楽しんでいる節がある。
レイナルドを自由にさせているのも、いつか幕が上がるのを楽しみに待っているからだ。
(それならせいぜい楽しませてやるさ)
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