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 朝食を食べ終わったルイーゼに、なんとイザベラはお風呂まで用意してくれていた。  たっぷりとお湯の張られた猫脚のバスタブの中には、数種類のハーブがブレンドされたガーゼの巾着が浮かべられていて、これもイザベラのお手製とのことだった。しかも巾着の紐は上質なサテンのリボンだ。  いささか女子力が高すぎやしないだろうか。  風呂に浸かりながらルイーゼは逡巡する。  しかし既に胃袋も女子心もガッチリ掴まれたルイーゼは、もうすっかりイザベラのことが大好きになっていた。    そして入浴後、案内されたのはレイナルドの寝室とは反対側に位置する部屋だった。  「さ、入って」  言われた通り中に入るとそこは衣装部屋だった。  「ドレスがこんなに……!」  ずらりと並んだドレスはどれも新品同様の美しさで、使われている生地も散りばめられた宝石も素晴らしい物だった。  イザベラは部屋の奥に進み、ある一角の前で止まった。そしてドレスをかき分けるようにしてなにかを探しているようである。  「凄いでしょ?全部陛下がレイナルドの母親に贈ったものよ」  「こんな高価なドレスはヴァレンティナ様でも滅多にお召しにならないです。それなのにこの数……」  ロドルフォ国王陛下は好色だともっぱらの噂だが、果たして好色な人間がこれほどのことを数多いるお手つきのすべてにするだろうか。  (そんなこと無理だわ)  いくら国王だとて使える額には限度がある。  それならレイナルドの母ソフィア妃だけが特別な存在だというのだろうか。  「まあ……あの王妃様の気持ちもわからなくはないわ。由緒正しき大貴族出身の王妃が、メイドだった第二妃にこんなに差をつけられればそりゃ殺したくもなるわよ」  「ヴァレンティナ様がレイナルド殿下を目の敵にするのは、単に王位継承権の問題だけではないのですね」  「そういうこと……あ、あったあった!コレに着替えて頂戴!」  目的の物を見つけたイザベラの声が弾む。     「これ……ですか?」  イザベラに渡されたのは、市井を歩く女性が身に着けるような一般的なワンピースだった。  (どうしてこんな豪華なドレスの中に?)  「それ、あの子の母親が気に入ってよく着てた服よ」  「ソフィア妃が?」  信じられない。これだけ豪華絢爛たる衣装に溢れているのに、どうしてこんな平民が着るような服を……  (あ!そうだわ、確かソフィア妃は平民出身だったのよね……)  「本当はスカートじゃない方がいいんだけど……まあ仕方ないわね」  「?」  イザベラが呟いた言葉の意味はわからなかったが、とにかくルイーゼは言われるままに、ソフィア妃のお気に入りだったという紺色のワンピースに着替えたのだった。
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