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 ワンピースのサイズはルイーゼの身体に驚くほどぴったりで、なにより着心地がよかった。  いつも着ているゴテゴテしたドレスと違い、シンプルだが裾に向かってゆるやかに広がるシルエットのスカートは、動くたびにヒラリと揺れてルイーゼの華奢な足首を覗かせる。  「妖精だ……まるで妖精じゃないか!!」  入り口の方から奇声が聞こえ振り向くと、そこには両手を胸の前でわなわなさせているレイナルドが。  (っていうか誰!?)  聞き覚えのある声と、その様子のおかしさからレイナルドであることには間違いない。しかしその見た目はなんだ。この数時間で一体君になにが起こったんだ。  顔の判別がつかないほどボサボサで、くすんだ白髪のように見えた頭髪は綺麗に切り揃えられていた。丁寧に(くしけず)られ、艶を取り戻した髪はなんと美しく透けるような銀色。  光を遮るものがなくなり、青灰色の瞳は透明度を増し、美しい鼻梁の形も露わになった彼は恐ろしいほどに美しかった。  ルイーゼに尋常でない衝撃が走る。  だが衝撃が走ったのはレイナルドも同じだったようで、彼は感極まった表情でゆっくりとルイーゼに向かって歩いて来た。  「素材の良さがこれでもかと表れてる……駄目だ、こんな可愛らしい姿を他の奴らになんて見せられない。隠してしまおうか……いや隠してもきっと濁流のように漏れ出してしまう……!!」  「あの、レイナルドさま?」  受けた衝撃と動揺は、レイナルドの通常運転のおかげで瞬時に散った。  「なんだい?ああもしかして……昨日は中途半端に終わってしまったから身体が疼くの?お嫁さんを欲求不満にさせるなんて僕は駄目な夫だ。でもごめん……今はゆっくりしている時間がないんだ。すぐにここを出なければ」  レイナルドとの会話には毎回聞き捨てならない言葉がちょいちょいと挟まれるが、重要な単語もあるためにそちらを優先する。  「ここを出る?今すぐ?」  「うん。でも心配しないで、お嫁さんは僕がしっかりと守るから。イザベラ、準備はできてるか?」  「ええ。もう部下たちが首尾よくやってくれた頃よ。あんたも着替えなさい」  「わかった」  答えると、レイナルドは着ている衣服に手を掛けた。  イザベラも着替えると言うのでルイーゼも一緒に部屋を出ようとすると唐突に腕を掴まれる。  「手伝ってくれる……?」  ルイーゼに向かって恐る恐る問い掛けながら、子犬のように瞳を潤ませるレイナルド。  王族の正装は無駄な飾りが多く、支度に時間がかかるが脱ぐ時もまた同じだ。  イザベラは(はな)から手伝う気がないのか既に部屋を退出してしまっている。    「あの……慣れないので手間取ってしまうかもしれませんが、お手伝いします」  「ありがとう!」  レイナルドは満面の笑みでそう言うと、ルイーゼと共にたくさんの飾りを外し始めた。    「痛っ!」  飾りを留めていたピンが刺さり、ルイーゼの指先に血がぷっくりとした玉を作る。    「大丈夫!?」  「も、申し訳ありません。私ったらそそっかしくて……きゃあ!」  レイナルドは躊躇わずルイーゼの指先を口に含んだ。  「い、いけません!私の血なんて舐めちゃ……あっ……」  熱い舌が指先の傷をなぞり、ピリリとした僅かな痛みが走る。  「レイナルド様……?」  着替えの手を止めたレイナルドは空いた片手でルイーゼの腰を引き寄せた。  そして指を口の中から出すと、今度はルイーゼの目の前で見せつけるように舌を這わせる。  誘うような目で見つめられ、恥ずかしくて目を逸らすルイーゼに、レイナルドは悪魔のような甘い声で囁いた。  「……今日のご褒美は馬車の中で頂戴?いいでしょう?」  「ば、馬車……?どこに行くのですか?」  耳元で囁かないで欲しい。下腹部がゾクゾクして足に力が入らなくなる。  「君の祖国アヴィラスに」  「アヴィラスに……?なぜですか?陛下から許可をいただいたのですか?」  「そんなものはいらないよ。さあ、早く支度をして出発だ。急がなければ気付かれる」  一体なにを誰に?とは聞けなかった。  その後すぐに唇を塞がれてしまったからだ。      
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