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レイナルドは制限時間めいっぱいまでルイーゼを抱いた。
まるでこの後に待つしばしの別れを悲しむかのように、行為の間中ずっとルイーゼを抱き締めて離さなかった。
「……じゃあ行くよ」
少し駄々をこねるかと思っていたが、意外にもレイナルドは時間通りルイーゼから離れ、待機させていたフォルメントス兵の元へ戻った。
「はい。お気を付けて……どうかレイナルドさまが在るべき場所に戻れますよう、ここからお祈りしています」
「違うよ。僕の在るべき場所は君の側だルイーゼ。君の側にいるために、しなきゃいけないことをするだけだ」
なんて嬉しいことを言ってくれるのだろう。
そして幸せなのはルイーゼだけではない……振り向けば、なんとも穏やかな表情で口元を緩めるゴンザレスが。
しかし……そんなゴンザレスとは対照的に、同じく見送りに来た父ジュリアーノは精根尽き果てた様子だ。
なにがあったのかは後で聞いてみないとわからないが、ゴンザレスさんのあの表情を見る限り、彼の人生に暗い影を落としていた原因は取り除かれたのだろう。そしておそらく幸せなオマケもついてきたに違いない。
よくやった父!偉いぞ父!お母様には絶対に黙っておくから。
「ルイーゼ。すべて終わったらすぐに迎えに来る。だから……」
「?」
馬上のレイナルドがゆっくりと屈み、ルイーゼの耳元で囁いた。
「それまでにルイーゼの大切なところをゆっくり休ませてあげて?次からは今日みたいな短い時間で離してなんてあげられないから」
ルイーゼの頬は火がついたように赤くなる。
正直言うと、歩くのも辛いのだ。
「名残惜しいのはよくわかるけど、そろそろ行くわよ」
「ゴンザレスさん!」
「……ありがとね。アンタのお陰で一生忘れられない想い出ができたわ」
(お、重いっ……!)
なんて重い響きなんだ。“一生”とは。
あんな父で良ければアヴィラスの国防のためにも、今後何度だって親交を深めていただきたいところだ。
「私こそ、ゴンザレスさんには本当にお世話になって……ありがとうございました。これからも父のことをよろしくお願いします」
「アンタ、まるで最後みたいな言い方じゃない」
「えっ!?そ、そんなことありませんよ。すべてが終わったらまたゴンザレスさんの美味しいご飯が食べたいです」
「ふふ。嬉しいこと言ってくれるじゃない。レイナルドが王太子になれば、王宮の食材使い放題よ!楽しみに待ってなさい」
「はい」
そして出発の時が来た。
馬上から兵士たちに指示を飛ばすレイナルドは雄々しく美しかった。
「ルイーゼ」
兵が前進を始めると、レイナルドは馬から下りてルイーゼを抱きしめ唇を塞いだ。
「レ、レイナルドさま!?」
「愛しているよルイーゼ」
それだけ言い残し、レイナルドは馬に飛び乗り駆けて行った。
段々と遠くなる後ろ姿に、ルイーゼの心臓はズキズキと音を立てて痛んだ。
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