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 男は不健康そうな青白い肌をしていたが、透き通る青灰色の瞳にスッと通った鼻筋、そしてその両横の鼻翼の形が国王ロドルフォによく似ていた。  「……お……」  「お?」  「……女の子……!」  今年二十四歳になるルイーゼ。“子”と付けていただけるような年齢ではないのだが。  しかし今はそれよりも、目の前の男性の女性を初めて見るかのような反応の方が気になった。    「……れは……なのか……」  「は?」  男はなにか言葉を発したのだが、そのボソボソとした声が聞き取れなかったルイーゼが問い返したその瞬間だった。  「きゃぁぁあ!!」  まるでバネで弾かれたようにガバっと上体を起こした男の顔が、ルイーゼの顔前から三センチほどの隙間を開けたところで止まる。  髪の隙間から見える青灰色の瞳がドロドロと濁っているように見えるのは、瞳孔が開いているせいだろうか。怖い。怖すぎる。  慌てて後ろに身体を引こうとしたルイーゼだったが、いつの間にかガッチリと腰を掴まれていて動けない。向かい合わせで抱き合うような姿勢に、さすがにルイーゼもこれはまずいと感じる。  「……こ、これが溢れ出る不毛な愛と情欲に身を焦がした者が決行する“夜這い”というやつなんだな……しかも女性からなんて……!それなら僕は男として応えねばなるまい……女性に恥をかかせる訳には……」  早口でブツブツと捲し立てる男の背後にチラリと見えたのは積まれた数冊の本だったが、その一番上に【最強の四十八手解説~技だけに頼るな 至高の駆け引き~】という題が見え、ルイーゼの顔から一気に血の気が引く。  「あああああの、わたし!」  「……ああ……なんて綺麗なんだ……瑠璃色の瞳に蜂蜜みたいにとろりとした艶のある金の髪……まるで女神のようだよ……こんな人が僕を求めてくれるなんて……!」  「ま、ま、迷子になってしまいまして!」  「……ああそうか、僕を探して迷子になってしまったんだね……僕はなんて罪深い男なんだ。あなたのような美しい女性に夜這いをさせてしまうほど待たせてしまっていたなんて……!でも安心して。もう苦しい日々は終わりだよ」  「えっ!?あ、あのっ!」  「遠慮せず僕のことはレイと呼んで。あなただけの呼び名だよ」  「レ、レイ!?」  「そう。レイナルドだからレイ。それとも略さない方がいい?そうだよね……だって僕の名はあなたの大好きな名前だものね。勝手なことを言ってしまってごめんなさい。僕なら気にしないから、どうかあなたの好きなように呼んで」  (レイナルド!?)  あなたの大好きな名前とか訳のわからない発言はとりあえず置いておこう。  レイナルドとは、幽閉された第二王子の名前と同じだ。ならばここは第二王子の幽閉されている宮殿で、目の前の少し……いや、だいぶ頭のおかしい青年は、ルイーゼの夫アルセニオを殺そうとしたレイナルド王子だというのか。  
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