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「離せイザベラ!!僕の愛しい人との初めての床入りを邪魔するつもりか!!」
(イザベラ!?)
イザベラとはこのフォルメントスで生まれた女児に付ける昨今人気の名前だ。
しかしイザベラと呼ばれた割れ顎の男性にイザベラの要素はまるでない。
筋骨隆々ガチムチ体型の彼女(?)はどこからどう見てもイザベラと言うより【職業は傭兵、名はゴンザレス】という方が適当である。
「床入りなら床に行きなさい!よりにもよってこんな埃臭い場所で、しかも兄嫁を!!」
「兄嫁……!?」
レイナルドは信じられないと言った風にゴン…じゃないイザベラとルイーゼを交互に見る。
「私のこと、ご存知なのですね」
公の場には必ずアルセニオと共に出席するルイーゼの顔を知る人間は多い。だがルイーゼもこの六年で王宮内に住まう者の顔はほとんど覚えてしまった。それでもイザベラとは一度も顔を合わせたことはない。
「まあそりゃ、こんなとこに勤めてればね。顔くらいは知ってるわよ。で、妃殿下がどうしてこんな寂れた宮へ?ここがこの子の宮だって知っていて足を踏み入れたの?」
「あの、“この子”って……」
「この子、フォルメントスの第二王子レイナルドよ」
イザベラはそう言うとルイーゼから少し離れた場所にレイナルドを下ろし、その逞しい腕で“待て”というように彼の行く手を遮っている。
やはり彼があのレイナルド王子だったのか。しかしこれが第二王子とは、いささかあくが強すぎるのではないだろうか。
「やめろイザベラ!彼女は危険を冒して僕に会いに来てくれたんだ!だが……兄嫁というのは本当なのか……?」
床に座り直し、不安そうに眉を下げるレイナルドに、ルイーゼは立ち上がり礼を取った。
「ご無礼をお許し下さいレイナルド殿下。わたくしはアヴィラスより参りましたルイーゼと申します。第一王子アルセニオ殿下に嫁いで六年になります。今夜は訳あって道に迷い、勝手に殿下の宮に足を踏み入れてしまいました。深くお詫び申し上げます」
言いながらルイーゼは不思議に思った。
第二王子レイナルドは幽閉の身であると聞いていた。それなのにこの宮の周りには警備の者が誰もいなかった。
見た限りではレイナルド自身も自由に宮の中を闊歩しているようだし、これでは幽閉どころか軟禁とも言い難い。
「そうか……兄嫁であるにも関わらず、すべてに背く覚悟で僕の元へ来てくれたのだな……!!」
「あの、さっきの私の挨拶、聞こえてましたか?」
「受け入れる!僕は君のすべてを受け入れるよルイーゼ!」
そして勢いよくルイーゼに向かって走り出そうとレイナルドが腰を浮かせた瞬間、イザベラのフリフリレースのスカートがヒラリと宙を舞った。
「えっ?えっ?」
鈍い音と共にレイナルドが視界から消え、慌てて辺りを見回すと部屋の奥からうめき声が聞こえた。
「……くそっ、こんな奴を僕につけやがって父上め……!」
まるで呪いの言葉を吐き捨てるように、言い終わるとレイナルドはそのまま意識を失ってしまったのだった。
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