人里、あるいは山奥から麓まで

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 場所を変えると鳥がいた。  またもや僕の鼓動は速くなる。  鳥は木の枝に止まって毛繕(けづくろ)いをしていた。  僕は鳥に向かって同じことを尋ねる。 「あの、人間とはどうやって喋ってるんですか?」  鳥は答える。 「いや、別に私、喋れません」  鳥は嘘しかつかないのだと、僕は思う。 「いや、あなた達はオハヨーとか、コンニチハとか、器用に人間の言葉を操ると聞きましたよ」  鳥は枝から飛び立とうとしているのか、前傾姿勢で答えてくる。  何故そうも急いで立ち去ろうとするのか、僕は少し苛立(いらだ)つ。 「ああ…… あれは適当に雰囲気で同じような音を発しているだけで、決して喋っているわけではないですよ」 「雰囲気ですか……」 「あと、それが出来るのはインコとか九官鳥で、私はハトです。そもそも無理です」  であれば、ハトなんかに用は無い。  勝手に何処へでも飛び立てばいいと、僕は思う。  ハトに一瞥(いちべつ)もくれずに立ち去る僕もどうかと思ったが、先に立ち去ろうとして不快な態度をとったのは向こうではあるので、お互い様だと自らの気持ちに蓋をした。
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