人里、あるいは山奥から麓まで

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 少し歩くと馬がいた。  鼓動が脈打つ。  しかし馬は僕に気が付くと露骨に背を向け、立ち去ろうとしていた。  僕は馬を呼び止める。 「いや待ってくださいよ。何も取って食おうとしているわけじゃないですよ」  馬は立ち止まって答える。 「いや、本当にそうですか? (だま)されませんよ」  なんて性格の悪い奴だと、僕は思う。  初めて会う者に対して態度が不遜(ふそん)過ぎる。 「いや本当ですって。僕が食べたいのは人間であって、馬じゃない。少なくとも今は」  馬は、首だけこちらに(ひね)って答える。  いつでも逃げ出せるような構えに見えた。 「まぁいいですけど…… それで、何か?」 「人間と話すにはどうすればいいでしょう?」  少し間を空けて馬は答えてくる。 「いや知りませんよ……」  言い方に(とげ)が目立つ。  馬全般の性格が悪いのか、この個体だけの性格が悪いのかはわからないが、少なくとも腹は立った。 「いやあなた達、人間を乗せたりするじゃないですか。人間の指示も従順に聞くようですし」 「いやあれは雰囲気で合わせてるだけで、喋るのとはちょっと違いますよ……」 「雰囲気ですか……」  であれば本当に役に立たない。  馬なんぞに話し掛けて、損をした。  先程から色々な(やから)に冷たくされたことも相まって、僕は苛立ちが止まらない。 「であれば、馬なんかに用は無いです。逃げたいなら、さっさと逃げてください」  だから、つい僕も嫌な言い方をしてしまった。 「そっちから話し掛けてきたのに、なんですか、その態度は。いや、いいです、逃げます」  そう言うと馬は足早に立ち去り、残された僕は仕方がないのでその場に座って欠伸をした。
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