人里、あるいは山奥から麓まで

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 僕は混乱する。 「であれば、僕は人間を食べることが出来ないってことですか? そんな……」 「残念ながら」  しかし、諦めはつかない。  一度でいいから人間を食べてみたい。 「誰かお金や車を貸してくれるような動物は、この山にはいませんかね?」 「いや無理でしょう…… それこそ先程の馬に乗っていけばいいんじゃないですか?」  名案だと思う。しかし。  ――さっき、冷たく当たってしまった。  つまり、もう頼めない。 「いやそれが、先程、冷たく当たってしまいまして…… 今更頼めません」  他者には、すべからく優しく接するべきだと、僕は反省した。 「それは残念ですね。喧嘩でもしたんですか?」  鹿は聞いてくる。  やりとりの全てを見ていたわけではないようだ。 「いや喧嘩というか、なんか僕が話しているのに、終始逃げようとしていたので、腹が立って」 「……まぁ、食べられると思ったんでしょうね」  食べるつもりなど無かったのに。
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