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「私のことを許してちょうだい」
昔、この言葉を言ったのは誰だっただろうか。もう、そんなものは忘れてしまった。思い出したくもない。あんな記憶なんて...。
﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢
ピピピピッ、ピピピピッ。ピピピピッ、ピピピピッ。
鳴り響くアラーム音に私は目を覚ます。なんだか嫌なものを見たような気がする。でも、何も思い出せない。見慣れない部屋。見慣れないもの。まだ、この環境にさえ慣れることができないでいる。
「学校...」
(今日も休まないと)
その中で、今日も休まなければならない、という思いだけが私を動かす。起き上がって、まだ感覚の鈍い体を引きずり、部屋のドアを開ける。そして、階段を降りあの人の元へ向かう。
「おはよう、お母さん」
「おはよう」
挨拶をすると、同じように私にもそれが返ってくる。当然のことだけど、私にとってはそうじゃなかったような気がする。
「ご飯、できてるわよ」
「うん、ありがと」
私はそう返すと、ダイニングにある机に並んだご飯を食べ始める。今日は、白ご飯に味噌汁、サバの塩焼き、そして、きゅうりの漬物といったメニューだ。
「ごちそうさまでした」
美味しい朝食を食べ終え、私は食器を台所に運ぶ。
「あら、ありがとう」
それを見て嬉しそうに食器を受け取って洗い始めるあの人に私は首を振って答える。そして、部屋へ帰ろうと、台所を後にして二階の部屋へと戻ろうとするが、その前に後ろから声がかかる。
「待って、今日は学校へ行くの?」
少しだけ期待を込めたような口調で引き止められ、私はその返答に一瞬戸惑ってしまう。そして、できるだけ平静を装いながら私は返す。
「ううん、今日も休むよ」
「そう...」
私の言葉に小さくそう返答が返ってくる。だが、私は声のした方を振り返ることなく、逆に足早に部屋へと戻る。振り返った先のあの人の表情を見てはいけない。戻れなくなってしまうから。階段を登り、部屋のドアを開けて中に入り閉める。そうして、ようやく一息ついて閉めたドアへ背を持たれかけさせる。
「はあ...」
そのままズルズルと床に座り込み考える。あの時、もし振り返っていれば何が変わったのだろうか?私は学校に行けていたのだろうか。いや、そもそも私はどうして...。
(学校に行かなくなったのだろう)
何か理由があった?だとしたら、それは...きっと。
私は、一体何を忘れたことにしていたのだろう___。
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