5日目 「金はあなたの努力の重み」

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「何処にも行かないで」  誰かを追いかけていた。誰かを引き止めたかった。けど、伸ばした手は虚しく空を切った。私は一体誰を求めていたのだろう。 ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢  ピピピピッ、ピピピッ。 「待って、私を置いていかないでっ___ 」  白くどこか見覚えのある天井に、私は手を伸ばしている。その手は何に届くこともない。 「......学校」 (休もう、休まないと) 部屋を出て、階段を降り、あの人の元へ向かう間も自身の中を鬱屈とした気持ちが覆い尽くしていた。 「おはよう」 「おはよう...」 「どうしたの、具合でも悪い?」 そんな私の気持ちが目視でもわかるくらいだったのだろうか。それとも、何かを感じ取ったのだろうか。あの人はいつも通り私と挨拶を交わした後、心配げにこちらを見つめてくる。 「ううん。別に大丈夫だよ」 「そう。なら、良かったわ」 「あのね...」 今日も学校を休みたいんだ、と続けようとした私に、あの人は言う。 「やっぱり、どこか体調悪かったの?大丈夫?」 「ち、違うの。今日も学校休んでいいか聞こうとしただけ」 「そう...」 私の返答に心做しか元気のない声であの人は呟く。だが、そんなものは幻覚か何かだったようにあの人はすぐにいつもの調子を取り戻して、私に微笑みを向けてくる。それを正面から受け取る資格が私にはない。 「じゃあ、欠席の連絡学校に入れとくわね」 そう言い残して、あの人は私の前から去っていこうとする。また、私の前から消えていこうとする。 「待って!!」 気づけば、そんな言葉を口にしていた。手は無意識にあの人の服の裾を掴んでいた。自分でも久しぶりに聞く自身の大声だった。その言葉に目の前のあの人はビクリと肩を揺らした後、ゆっくりとこちらを振り返る。 「どうしたの?急にそんな大声出して...」 その反応に違うと思った。私の知ってる人では...私が求めている人ではない。あなたは決して私の言葉に振り返ったりなんてしない。私の問いに答えを返してもくれない。だから、この人は違う人なんだ。 「ごめんね、なんでもないよ」 それだけ言って、掴んでいた服の裾を離して私は逃げるように部屋へと帰る。階段を駆け上り、一直線に部屋の中へと入る。そして先程の出来事を振り返るように、虚空に向かって手を伸ばす。何にも届かない。当たり前だ。だって、そこには何もないのだから。だからもう一生、私の伸ばした手があなたに届くことはないのだ。
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