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「愛しているわ」
私だって愛してた。あなたのことが大好きだった。でも、今は違う。あなたのせいで、あなたの言葉が信じられなくなった。あなたの全てが嘘に見えた。
﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢
ピピピッ、ピピピッ...。
アラームの音が聞こえ、私は目を開ける。
「今日は土曜なのに、何でアラームが...」
私は言いながら目覚まし時計を目に収め、言葉を止める。視界の先にある時計のアラームがセットされていないのだ。
「あれ、アラームの音が聞こえたと思ったんだけどな...」
いつまで、そうしているの?
「...っ!!」
唐突にそんな声が聞こえた気がする。だが、部屋を見渡してみても誰もいない。きっと幻聴かなにかなのだろう。それか、外から小さく聞こえてくる声が偶然そう聞こえただけなのかもしれない。きっとそうだ。
(...早く部屋から出よう)
部屋を出て、階段を降り、一階へと向かう。あの声が頭にこびりついている。それを振り払うように、私はダイニングの部屋のドアに手をかける。そしてドアを開けようとするが、中から話し声が聞こえてきて私は手を止める。
「なあ、あの子はまだ学校に行っていないのか」
「ええ。まだダメみたい...」
「全く最近の子どもはどうしてあんな___ 」
「まだ、しょうがないわ」
私についての話だということは内容を聞いてなんとなく理解した。他人の子どもと比べてものを言うその人とそれを優しく諌めようとするあの人。どっちもどっちだな、というのが正直な感想だ。
「お前はまたそんな甘いことを言って」
「だってしょうがないじゃない!」
私が聞き耳を立てるドアの向こうから、あの人の大きな声が聞こえてきてビクッと肩を震わせる。めずらしい、あの人がこんなに声を荒げるなんて___。
「まだあの子との距離感がわからないのよ。話しかけたら返してくれはするけど、いっつも何かを隠してて...でも、それを話してくれたことなんて一度もない。信用されてないの」
「...おい」
「あなたは家のことに、あの子のことに干渉しないからわからないでしょうけどね。私がもしあの子に学校に行けって言ってそれであの子を傷つけたらどうするの?あの子がまたいなくなったら___ 」
「お前、その辺にしておけ。もしあの子が聞いていたらどうするつもりだ?」
「...っ!!ごめんなさい。つい、大きな声を出してしまって」
その会話を聞いて私はゆっくりとドアから遠ざかる。これは私が聞いていいものではなかった。そのままドアに背を向けて、私は物音を立てないようにゆっくりと部屋へ戻る。私に優しい言葉をかけておきながら、その全てが自分のためでしかないあの人。あのことがあってから、私という存在に干渉しようとしないその人。そして、その一度壊れた中に入れられた緩衝材の私。
結局、全部偽物なのよ。もちろん、あなたも、ね。
朝目覚めたときと同じ声が聞こえた。その言葉がすとんと私の中に入ってくる。
(偽物...)
偽物、確かにその通りだ。やけにしっくりきた。この歪な関係を表すのになんて相応しいのだろうと。やっぱり、全て偽物だったんだ。そう思ったら、今までの全てに合点がいく。でも、一つだけ...。
「あれ、私。どうして、泣いてるんだろう」
こっちに来て。一緒に進もう。
あの日、止まった時間は少しずつ進んでいこうとする。その流れに、私はあなたと一緒に手を伸ばした___。
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