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「ご、ごめんなさい」
「あっ...」
私の前であの人が振り払われた手を胸の前で抱きしめながら言う。その反応に私は少なからず罪悪感を覚える。
「こっちこそ、ごめんなさい」
「ええ」
私の謝罪にあの人は一言そう返す。私たちの間に気まずい空気が流れる。それを払拭したのは、今まで関与してこなかったその人だった。
「それで、話とは一体何だ?」
「あ、ああ。えっとね...」
私はその人の言葉に背中を押されるように話し始める。自分の過去の話、親の話。そして、今の生活の話。それらの話を一通り終えて、最後に二人に問いかける。
「私がね、学校に行かなかったのなんでだと思う?」
「学校に行きたくなかったからじゃないのか?」
その人が新聞を読む手を止めて言う。確かにそうだ。だが、私が今聞きたいと思っているのはそんなことではない。
「それはなんでだと思う?私が学校に行きたくない理由は?」
「そうね...心の整理をする時間が欲しかったから、とかかしら?」
少し考えてあの人が言った言葉に私は首を横に振る。到底、そんな崇高な理由ではない。双方とも、やはり正解にはたどり着けないみたいだ。これが、偽りの実力。今まで、私が見ないようにしていた真実。その全てを受け止めて、私は正解を口にする。
「私、気を引きたかったの」
「「......」」
「学校に行きたくないわけじゃないの。でも私は学校で友達をつくることよりも、先に家族をつくろうと思ったの。だって、私たち血が繋がってないから」
そうだ、私たちに血の繋がりなんてない。それどころか、何の繋がりもなかったただの他人だった人たちだ。それが、いきなり家族になったのだ。たった一枚の紙切れで繋がれた関係に。
「形だけの関係じゃなくて、家族だと実感できるものがほしかった。私のことをもっと見てほしかった。だけど、現実は上手くいかなかった。私を通して違う人を見ているお母さん。過去の事故を引きずって私もそうなると思って、家のことに干渉しようとしないお父さん」
「「...っ!!」」
私の言った言葉に思い当たる節があったのだろう。二人とも、バツが悪そうな表情をしている。
「凄く嫌だった。私のことを見てほしかった。私と会話してほしかった。私を...私を愛してほしかった」
最後の言葉を吐き出すように言ったとき、私はいつの間にか泣いていた。溢れた涙を拭っていると、不意にあの人が私を抱きしめた。
「ごめんなさい、いくら謝っても謝りきれないわ」
「すまなかった...。嫌なものから目を背けようとしていたのは俺たちのほうだったようだ」
二人から次々に告げられる謝罪の言葉。それらを一心に受け止めて、私は泣きじゃくった。体の水分が全部なくなるんじゃないか、と思うほどにたくさん泣いた。あの人はそんな私をずっと抱きしめていた。その人は、私がここに来てから初めて見る優しい瞳で私たちのことを見つめていた。偽物だけど、このとき私の中で本物になった。この形を信じることができた。
止まっていた時は、今動き始める___。
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