3日目 「水はあなたの側に静かに佇む」

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「ごめんなさい、お母さん」  ごめんなさい、その言葉にはきっとお母さんが思っていることとは違う意味がある。私だけがその意味を知ってる。それは、とても優しくてだからこそ残酷な痛み。私だけがその痛みを知ってる。 ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢ ﹢  ピピピピッ、ピピピピッ....。 ベッドの近くにある机の上に置かれた時計のアラーム音が聞こえる。私は体を起こし、何の気無しに目を擦ろうとして、手が顔に触れたところで手を止める。 「...?」 頬の辺りは何故だかしっとりしていて、部屋にある鏡を見ると目がほんの少し充血していたのだ。私は泣いていたのだろうか?じゃあ、何で? (うーん、変な夢でも見たのかな?) 夢の内容も夢を見たのかどうかもわからないけど、多分何かの夢でも見たのだろう。だって、その結論に達したときに何も違和感を覚えなかったから。 「今日も休もう」 立ち上がって部屋のドアを開けようとするが、何故か開かない。ガチャガチャと何度もドアノブを回してみるが、一向に開く気配はない。 「あれ、開かない...どうして?」 その時だった。偶然にも私はドアノブの内側に力を込めてしまい、さっきまで動かなかったドアが音を立てて開く。 「あ、あはは...。そういえば、ドア引いたら開くやつだった」 乾いた笑いが口から零れ落ちる。私はこれを知らない___。 「さてと、一階にご飯食べに行こう...」 起きたときよりも幾分か元気のない声でそう呟いて、私は一階へ向けて階段を降りていく。音のないその場所に私の階段を降りるタンタンという音だけが響いて少し不気味な気がした。 「あら、おはよう」 「おはよう」 お母さんは私が階段を降りてきた音に気がついて振り返る。笑みを浮かべながら私に挨拶をする姿に少しだけ後ろめたさを感じる。 「えっと、今日も...」 「今日も学校休むのよね」 「あっ...うん」 いつも言っていた言葉のはずなのに、今日だけは言葉がつっかえて出てこなかった。お母さんはそれに気づかなかったように、学校を休むかどうかを私に聞いてくる。反射的にそれに頷きを返してしまい、そのことに数秒遅れてから気がつく。 「...あ」 「どうかしたの?」 「ううん、なんでもない。私、部屋に帰るね」 そう言い残して足早にその場を去ると、後ろからお母さんが朝ごはんは食べないのか、と聞いてくる声が聞こえた。でも、私はその声に足を止めず、一直線に部屋へと向かった。ドアを一度で開け、部屋に入り、そのままベッドにうつ伏せに倒れ込む。大丈夫、今度は間違えなかった。...今度は失敗しなかった。なのに、どうしてだろうか。目から涙が溢れて止まらなかった。 「うっ..うぅ〜」 涙がシーツを濡らし、色が変わっていく。その感触を気持ち悪く感じて、ベッドにぺたんと座り込む。声をできる限り押し殺し、手で水滴を拭っていく。 きっとこれが、あなたのいない世界に残された消えない傷だ。
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