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どうやら意識を失う様に眠ってしまったらしい。
いつの間にか朝を迎えていた。
ずっと泣いていたせいで、瞼が重い。
髪もぼさぼさ、涙で肌も乾燥して、きっととんでもない顔をしているだろう。
時計を見ると、もう8:00近く。
さすがに彼も出勤しているだろう。
重たい体をなんとか動かして、ぼーっとした頭のまま、お手洗いに行く。
再びリビングに戻ると、テーブルの上に彼が作ったのであろう朝食と、“夕飯は俺が作ります。今はゆっくり休んで。”と書かれたメモが置いてあった。
男の人にしては綺麗な字。彼の性格をあらわしているようで好きだった文字をそっと撫でる。
今日のメニューは味噌汁と、ご飯と、あの卵焼き。
ラップを外して、卵焼きを摘んで食べた。
私とは味付けの違う、しょっぱい卵焼き。
初めて食べさせてもらったあの朝を思い出して、じわりと涙が出た。
その時、インターホンが鳴った。
こんな朝早くから誰だろう、それにひどい格好なのにどうしようと思いながら確認すると、真子ちゃんが心配そうな顔をして立っていた。
深夜、どうしようもなくなった私は、真子ちゃんに簡単なことの経緯と、どうすればいいか分からないといった旨のメッセージを一方的に送りつけていた。
その後、返信も何も確認していなかった。
心配して駆けつけてくれたんだ。
「真子ちゃん…」
『ちょっと、あんた大丈夫!?』
通話ボタンを押して、真子ちゃんの声を聞いた瞬間にまた涙が溢れ出した。
走って玄関まで迎えにいき、扉を開ける。
「わっ!ひっどい顔!
電話にも出ないから、もう私あんたがなんかやらかすんじゃないかと思って!」
「真子ちゃーんっうう〜〜」
人目を憚らず、真子ちゃんに抱きついてわんわん泣く。
真子ちゃんは優しく背中を撫でながら、リビングへと付き添ってくれた。
「どう?ちょっと落ち着いた?」
「うん…しんば、いかけて、ごめん…」
ソファに座らせてもらって、ティッシュも貰う。
私の事が心配で、勤務も遅番にしてもらったらしい。
その優しさで、また涙が出た。
「あんたが圭一さんに好かれようとたくさん頑張ってたの、知ってたからさ。なんていうか、辛いね」
真子ちゃんは相変わらず、私の背中を優しく撫で続けてくれる。しばらくそうしていると、
「…本当、最低な男だね」
突然空気が変わった。
ハッとして真子ちゃんの顔を見る。
「出世のために、かほりを利用するなんて。
こんなに泣かせて。そんな奴さっさと別れなよ。
他にもいい人はいるよ」
まさか真子ちゃんがそんな事言うとは思わなくて、呆気にとられる。
そしてすぐに思った。そんなの無理だ。
いくら真子ちゃんの助言でも、聞けない。
「……出来ないよ…私あの人の事が大好きなの、愛してるの」
また涙が溢れる。
結局私はあの人の事をどうしようもなく愛しているのだ。
「…冗談よ。まあ腹は立つっちゃ腹立つけど」
後半ぼそりと呟く様に言う真子ちゃんのおかげで少し和らいだ。
親友も怒ってくれている事が、なんだか嬉しい。
「今は、ただ混乱しているだけ。
何を信じればいいのか分からないんだよね?」
こくりと頷く。
「私は、圭一さんがあんたに愛してるって言った事は、本当だと思う。」
「………うん」
「それを信じて、圭一さんと話しな。
大好きなら、愛しているなら、ちゃんと向き合ってみな」
真子ちゃんの言葉が、深く心に沁みる。
どうしてだろう、自分でもどこか分かっていた事なのに、真子ちゃんに言われると、素直にそうしようと思える。勇気を貰える。
私は本当にいい友達に出会えた。
あの時、自分を信じて、高校を変えて、良かった。
だから今回も、自分を信じて、あの人を信じて、もう一度話してみよう。
「真子ちゃん、ありがとう。大好き」
「私もよ。頑張ってね。どうか幸せになって」
私達は最後にぎゅっとハグをして、真子ちゃんはお仕事に向かった。
「…お風呂、入らなきゃ」
そうと決まれば、後は行動を起こすのみ。
身支度を整えて、彼を待とう。
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