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仕事中に人目を忍んでキスをする。
想像していたのとはかなり違ったポジションで俺はソレを満喫していた。
さっきまでの七斗への不信感なんて何処へやら…。
優里には俺の想像を超える力があって、それは確実に幸福感を与えてくる。
幸せを受け取る感覚。
久しく感じていなかった充足感だ。
手の平を大きく開いて、キュッと握ってみる。
掴んでいる幸せを
壊さないように
守りたいと思った。
珍しく厨房から出て来ていた仁さんが手をにぎにぎする俺を後ろから覗き込んでくる。
「光、何やってんだ?」
「ぅわあっ!ビックリしたぁ…仁さん驚かさないでくださいよ」
「あはは、悪りぃ、手、痛いのか?」
「あぁ…いや、なんて言うか…へへ…」
「…何か分かんねぇけど…良い顔してるな。」
俺は弾かれたように顔を上げた。
「良い顔…してます?」
「ん?うん。してる、してる。」
俺は頰を撫でながら赤くなった。ちゃんと恋愛するのは久しぶりの事だ。いや、中身が在るものと考えれば、殆ど初めてに近いかも知れない。
「…優里のおかげかな?」
悪戯に笑った仁さんは俺の頭をクシャッと撫でて厨房に戻って行った。
すぐに八神さんが仁さんの側にやって来る。
幸せそうな二人を羨んでいた俺はもう居なかった。
俺にも
特別な場所が、見つかったせいだと思う。
優里を目で追うと必ずすぐに視線が合った。
アイツが俺を目で追っている事を知る。一つ、また一つと優里の行動を知るたびに体が喜びを溜めていくようだった。
優里が好き。
他人に期待しなかった俺が
優里に溺れてしまう。
長い指が片付ける為にグラスにかかるだけで…
下半身に悪影響。
仕事中はご注意あれ…と自分に言い聞かせた。
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