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143 俺の腕に口づけたり撫でたりしながらベッドで優里が呟いた。 「大学…休み明け行きにくいよね…」 一瞬想像はしたけど、ゲイバレした事は今更どうする事も出来ない。 言い訳するには物的証拠が多すぎる。 結局、掲示板に張り出された俺のキス写真も回収に行かなかったし、何なら今も貼ったままかも知れないわけで。 シーツを掴んで背中を向けて何でもない事のように返事を返した。 「あぁ…まぁ…済んだ事だしな」 本当は…少し…いや、それなりに怖い。 後ろ指さされながら、あと三年も通えるのか、なんて思わない事もない。 ただ、確実に言えるのは、優里と居られるならそんな事くらい我慢出来るだろうと思う自分が居た。 後ろから抱き竦められ、目を閉じる。 「光さんは…俺が守るから。俺、光さんと同じ大学に行こうと思ってるし」 閉じていた目をパッと開く。 「バカっ!おまえならもっと良い大学行けるだろっ!絶対ダメだぞっ!」 「ダメじゃないよ。…例えば違う大学に行ったとしたって就職先は変な話…うちの企業に決まってるんだ…親のすねかじるみたいな事はしたくなかったけど…兄貴の事も支えたいし…何だかんだ生活には金がいるからね。うち以上の大企業がないのも事実だよ」 「…はぁ…現実的な話だな」 俺はゴロンとベッドに身体を戻した。 優里も俺を抱き枕のようにして寝転ぶ。 「そうだ…伊織…大丈夫なのか?」 「うん。あの真冬って人のおかげ。相当キレるね。ヤクザなんて辞めれば良いのに…あの親父を丸め込んだんだ…兄貴もこの一週間で、ビックリするぐらい仕事のノウハウみたいなもん叩き込まれてて…簡単に言えば、使える人間を一週間で作った…みたいな話。跡継ぎ発表前ならマスコミも騒がないし、何より…兄貴が戻って母さんの体調が凄く良くなったのには驚きで。彼女は、兄貴に刺されて当たり前だと思っていたし、追い出された兄貴の事を誰より気にかけていたんですよ。真冬さんだけがそれを解ってた。うちに話をしに来てから一週間、母さんが入院している病院に兄貴を連れて通ってたらしいんですが、医者から退院の話がチラチラ出てるようだし…親父も驚いていて。龍堂会自体が橘グループの内側に入って、汚れ仕事もね…動きにくかった事業が簡単に回るようになるって…元々親父は実力主義な人だから、真冬さんを随分気に入ったみたいです。」 「なんか最初から中盤まではすげぇ…って思ってたけど、最後の一言で真冬さんの人たらしぶりが伺えて何とも…ハハ…あの人、親父さんの事も良い男だって言ってたもんなぁ。狙われかねないぞ」 苦笑いする俺に、優里は同じように苦笑いで返して来た。 「親父は大丈夫でしょうけど…」 「なんだよ」 「兄貴…あんまり元気ないっつーか…」 「親父は大丈夫って…伊織は大丈夫じゃないみたいな言い方するじゃん」 「兄貴は言いませんよ。元気がない理由が真冬さんだなんて…あくまでも…俺の個人的な勘なんですけど…」 居酒屋さくらで最後に見た二人を思い出す。 伊織は真冬さんにちょっかいをかけられる度に顔を赤らめていた。真冬さんが簡単にノンケを落とす話は燕さんから聞いていたし、伊織が彼に落ちていてもおかしくはないだろう。 だけど…伊織に元気がないのは心配だな。 「優里…明日の夜…BARに付き合ってくれないか?」 「BAR…ですか?良いけど俺、未成年だから入れないかも知れないですよ」 「あぁ、大丈夫だ。真冬さんが趣味でやってる店だから」 そういうと、優里は眉間に皺を寄せながら大の字になって吐き捨てた。 「本当、手広くやってんですね…嫌味な男」 「そう毛嫌いすんなって。本当に良い人なんだから」 「俺から光さんを奪ろうとした人はダメです。」 優里も案外子どもっぽいところがあるもんだ。 「ハハ…ほぉ〜んと頑固なんだから」 俺たちは明日の約束をした後、飽きる事なくお互いを貪った。 真冬さんと伊織のおかげで、俺と優里が自由を手に入れた日だったから。 もう何からも怯えなくて良い。 優里を好きでいていいんだ。 それだけの事が こんなにも幸せで愛おしい。
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