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144 翌日の深夜。 バイト終わりに優里とBAR Polarisに向かった。 居酒屋さくらからは歩いても行ける距離だ。 雑居ビルの地下。狭いエレベーターに乗り店に入る。 中は相変わらず狭いカウンター席のみ。バックルームの入り口に掛かったベルベットの黒いカーテンがユラっと揺れた。 「いらっしゃーい、光くん…と優里くんね」 「こんばんは」 「こんばんは」 「立ってないで座りな。光くんは?ワインで良い?」 「あ、はい」 鼻歌混じりにグラスにワインを注ぐ真冬さん。 コトンとカウンターにグラスが置かれて、真冬さんは優里を見た。 「見れば見る程良い男だねぇ。優里くんはどうする?飲めるなら出すよ?アルコール」 カウンターに頬杖をついてニッと微笑んで見せる彼は今日もエロい犬歯が輝いている。 「いえ…俺は烏龍茶で」 「おっと真面目くんだな…りょーかい」 グラスに瓶から出した烏龍茶を注ぎ、優里に差し出した真冬さん。 「で?二人揃ってどうしたの?遊びに来たわけじゃなさそうだけど」 若干ツンツンした優里をチラッと見て俺に視線を流す真冬さん。 「あ…その…あれから、真冬さん、伊織に会ってるのかなぁって…その…」 「あぁ……会ってないよ。一週間ほとんど離れる事なく行動を共にしてたけどね。目的は達成したし、伊織に会う用事も今のところ無いのが現状。…何?それがどうかしたの?」 優里が一気に飲み干した空のグラスをカウンターにドンと置いた。 真冬さんは肩を竦めて「おかわり?」と問いかける。 優里はそれを無視して言った。 「あんたっ…兄貴と何かあったのか?…その…つまり…」 「弟くんが心配するような事は何もないよ。」 「じゃあっ!じゃあ何で兄貴…あんな寂しそうなんだよ」 俺は真冬さんの表情が少し動いたのを見逃さなかった。 「伊織…元気ないみたいなんです。」 「そっかぁ…せっかく橘グループの跡継ぎに返り咲いたってのに…そう思わない?光くん」 いつもの俺なら気づかなかったかも知れない。 でも、今日は何か違う。真冬さんは…何かを知っていながら嘘をついてる。 どうしてだか、そんな気がした。 「真冬さん…伊織と何かあったんですか?」 優里に続き、俺のストレートな質問にピタリと彼の身体が固まった。 「何か…って?一体何があるんだよ。さっきも言ったよ?何もないって。」 「それはっ…えっと…」 「腹でも痛いんじゃない?ほら、アイツ何でも食うからさ。なんかに当たったのかもよ」 「兄貴の様子が変なのはそういうんじゃない。病気とかじゃありません。…本当にそんなんじゃなくて…」 「何だ何だぁ?二人して伊織に元気がないのは俺のせいだとでも言いたいみたいじゃない?」 俺はギュッと拳に力を入れて「ちがうんですか?」と呟いた。
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