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4 「四番テーブルたこわさお願いします」 七斗から受け取ったたこわさをお盆に乗せて移動する。 その最中に違うテーブルから呼び止められてビールのおかわりを受け、声を張ってオーダーを通す。 「2番さんっ生2入りますっ!」 「かしこまりましたぁーっ!」 活気のある店内と、気心知れた仲間達との仕事は楽しかった。 何より、今日は七斗とシフトが被ってるのが良い。 テンションは知らず知らずいつもより上がっていた。 「おーい!ハセッチ!」 後ろから呼び止められ振り向くと、そこには大学の何人かの友人達が来店していた。 「あれ?いつの間に来たんだよ?」 「さっきさっき!多分ハセッチ座敷に行ってたんじゃない?それよりこっちもビール四つ!」 「了解っ!」 厨房に入った七斗がジョッキを用意してくれる。 「はい、光さん。それ終わったら5番テーブルに唐揚げと枝豆、運んどいて下さいね」 冷めた物言いには慣れたけど、その横顔が可愛くてついキュンとしてしまう。 「おぅ…了解っ」 「学ぅ〜1番さんにお通し出しといて。仁さんがあっちに置いてくれてるから」 テキパキ動く七斗に見惚れていた俺の頭をコツンと突く誰かに振り返った。 「やっ八神さんっ」 「七斗が可愛いのは分かるけど、今晩は大繁盛の大入りだ。あんまサボってっと減給にすんぞ」 耳元で囁かれた言葉にギクリとしながら姿勢を正した。 「勘弁して下さいよ。」 「おら、働け働け」 そう言って俺を厨房の端から追い払った。 四つのジョッキを手にしながら、コッソリ厨房を振り返る。 八神さん、やっぱりだ。 カウンターに座った美女二人組から猛烈にアタックされてる仁さんを心配してフロアから戻ってきたんだ。 「ねぇ〜ライン教えてよ〜仁さぁ〜ん♡」 甘い声は積極的で、羨ましいとさえ感じる。あんな風に無遠慮に好意をぶつけてみたいもんだ。 「悪りぃ、俺、ラインやってねぇし」 なんとかのらりくらり返事を誤魔化している仁さん。客に冷たい態度が取れなくて困り果てている様子だ。 そこへ八神さんが入った。 「やめときなよ、二人とも。こいつ恋人居るからさ」 「えぇ〜!ヤダァ〜!あたし奪っちゃう奪っちゃう!」 すると、八神さんは包丁を握る仁さんの背後から彼の肩に顎を乗せて、低い声で呟いた。 「ダメだって。相手、かなりヤバい子だから、ほら、刺されちゃうかもよ?」 そう言って仁さんの包丁を持つ手をギュッと握り、彼女達にチラリと刃物を見せた。 「や、ヤダァ〜…なんかマジでヤバい感じ?えぇ〜じゃあ、八神さんが付き合ってぇ〜。あたし、八神さんも超タイプ」 八神さんはニッコリ笑って、「俺の恋人もタイプ同じなんだよね」とかわした。 そのやりとりを見て、二人の関係を知っている俺はほっこりするとともに、夕方のファーストフード店の時のようにボンヤリとしてしまうのだ。 結婚、家族…憧れ…叶わない恋愛対象… 八神さんと仁さんは幸せそうに見えるのに、何故か胸が痛くなる。 七斗に告白して、仮に上手くいったとして… 俺は強く居られるだろうか… そんな事を考えていたら、七斗に声をかけられた。 「光さん?大丈夫ですか?」 「ぁ…あぁ…全然!それ、重いだろ、持ってやるよ」 瓶ビールのケースを担いでいた七斗は手元を見てから笑った。 「何言ってんすか?俺、男ですから大丈夫ですよ。あ、5番テーブル終わりました?」 「あっ!いっけね!」 「ったく!早くっ!ほらっ!行くっ!」 尻をたたかれるように煽られて、慌てて5番テーブルに向かった。 男ですから…かぁ…だよなぁ"普通"はそうだ。
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