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「疲れたぁ〜っっ」
学がトレードマークといってもいい天然パーマの髪を揺らしながらテーブル席にお盆を抱えたまま突っ伏した。
「お疲れ様。今日もよく働いてくれたよ、ありがとうな」
八神さんが、カウンターを拭きながら労いの言葉をかける。
俺は七斗と店の入り口に出て、暖簾と看板の回収に向かった。
「外、あっちぃなぁ…」
看板が重くてなかなか持ち上がらない七斗に手を貸しながら呟いた。
「ですねぇ、中は冷房、結構利いてますから外の暑さは堪えます」
珍しくクシャっと顔を柔らかくして微笑んだ七斗。思わずその艶のある黒髪に手を伸ばしそうになった。
「あぁ!…長谷さん」
横から声がかかり、伸びかけた手がビクッと跳ね上がる。
「こんばんは」
ニッコリ笑って挨拶してきたのは、ファーストフード店で会った変な男、橘だった。
「お友達ですか?俺は看板入れとくんで、暖簾頼みますね」
七斗は空気を読んだのか、持ち上がった看板を転がしながら店内に入ってしまった。
「へぇ…」
店の前で二人になった橘はニヤニヤ笑いながら呟いた。
「な、なんだよ」
俺が暖簾に手を掛けると後ろから橘が近づいて囁いた。
「あぁいう小柄なのが好き?」
俺はバッと振り返ると橘を睨みつけた。
小柄とは七斗の事を指しているとしか思えない。
「悪いんだけどっ何言ってるか分かんないわっ!…」
「フフ…わざとらしいなぁ……」
「おまえさっ!今日会ったばっかだよな!俺になんか恨みでもあんのかよっ」
暖簾を握ったまま突っかかる俺に、両手を衝立のようにしてまぁまぁと苦笑いする橘。
「恨みなんかありませんよ。興味があるだけ。…ね?長谷さん」
俺はグッと唇を噛んだ。
「閉店作業中だから。じゃ」
「…食事だけなら…未成年でも入れますよね?」
「はあっ?!」
「見つけちゃったんで…長谷さんのバイト先」
ニヤリと微笑んだ橘に一瞬ゾクリとしたけど、これ以上構うのが嫌で俺は適当な返事をした。
「食事だけなら入れんじゃねぇ〜のっ!俺、ただのバイトだから知らねぇし」
そう言って中に入ろうとした。
「長谷さんっ」
「…何」
「光さんって…呼んでいい?」
俺は夜なのに、神々しいイケメンの笑顔に顔が引き攣った。
「な、なんで」
「呼びたいからに決まってんでしょ」
「…橘さ、あんまり年上を揶揄うなよ」
ガラガラっと店の引き戸が開き、中から八神さんが顔を出した。
「光、何してんだ、暖簾…あぁ、なんだ友達か?」
八神さんは橘を見て俺に問いかけてくる。
「えっ…と…あ、まぁ、はい…友達…みたいなヤツですかね」
「友達みたいな?なんだそりゃ…まぁいいや、そっちのイケメン、また飯でも食いに来いよ。」
「はいっ!是非っ!」
俺の心境的には、「はい!じゃねぇーよ!!!」と思った。
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