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「八神さん、何で飯なんて誘ったんですか…」
店内に入ってテーブル席の拭き掃除をする八神さんに呟いた。
「何でって…光、友達なんだろ?」
「いや…その…」
口籠もっていると、裏に居たらしい七斗が着替えを済ませて店に顔を出した。
「光さんのさっきの友達、あの人、俺知ってる気がするんですよねぇ…多分他校なんだけど、あの顔面でしょ?女子が騒いでた人なんだよなぁ…確か…あっ!!思い出したっ!橘優里だ!!めちゃくちゃ頭良い進学校ですよ!彼!」
そこへ学もやってきた。だらしなく着崩した学ランに鞄を担いで、カウンター席にドサッと腰をおろすと、羨ましいとばかりにボヤき始める。
「橘優里?あの?!光さんすげぇのと知り合いっすね。アイツ、進学校の生徒なくせにめちゃくちゃ遊んでるらしいっすよ?女の子取っ替え引っ替え!羨ましいなぁ〜」
俺は引き攣る口角を隠せないままに頭を掻いた。
「そんな有名なんだ…アイツ」
女の子を取っ替え引っ替えって…まぁ、遊び相手に困るタイプじゃないよな。
妙に納得しながら、暖簾を内側の入り口に掛けて振り返る。
七斗と目が合ったけど、疲れていたせいか喜ぶ気持ちが湧き上がらないまま終わってしまった。
高校3年組は早々と帰宅していく。
俺も八神さんと仁さんの関係を知っているから長居は無用とバックルームに入り着替えを始めた。
黒いカッターと黒いスラックス、長いカフェエプロンから私服にチェンジする。
ちょうどそこへ仁さんが入ってきた。
少し乱れた黒のカッターシャツの隙間から見える鎖骨に赤い内出血が見える。
さっきまで無かったのに…。
俺はズクンと下半身が疼くのを感じてバタンとロッカーの扉を閉めた。
仁さんが隣でタバコを取り出し、仕事始めと同じようにソファーに深く腰を下ろす。
胸元のジッポを探るも、見当たらず小さく舌打ちした時、タバコを咥えた八神さんが入って来た。
「欲しいのはコレか?」
エプロンから出したジッポをカチンと鳴らしながら蓋を開ける。
「さっき落としたぞ」
「チッ…お前がっ!!…」
文句を言いかけて俺をチラッと見る仁さん。
俺はコホンと小さく咳払いしてリュックを背負った。
「ほら…」
背中で八神さんの低く甘い声がする。
シュッとホイールを擦る音を聞いてから後ろを振り返ると、二人はジッポの火に向かい互いの顔を傾けタバコに火をつけていた。
イケメン同士の絡みは二人で随分と見慣れはしたものの、やっぱり照れてしまう。
俺はタイムカードを打刻して、裏口の前で挨拶した。
「お疲れ様っす」
すると、二人は満足そうに煙を吐き出しながら、声を揃えて言った。
「お疲れ〜」
バタンと裏口を閉めて二、三歩歩く。そこで、やっと胸元に手を当てて息を吐いた。
八神さんは見た目に反して物凄くヤキモチ焼きで、多分今日の仁さんと美女達との絡みを嫉妬したんだろう。
お仕置きとばかりにキスマークなんかでマーキングして…おそらくジッポはその時に胸ポケットから落ちたんだ。
八神さんは俺が二人の関係に気づいている事や、俺の恋愛対象が男である事を見抜いている。
でも、仁さんは案外鈍くて、おまけにキスマークを晒してしまうような無防備な人だ。
そんなもんだから、俺はいつもどこまで踏み込んで良いのかを考えあぐねていた。
今頃あのソファーで仁さんはトロトロにされているに違いない。俺なら間違いなくそうするからだ。
疼く下半身を人目につかない程度に押さえつけ、もう一度気怠く溜息を吐いた。
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