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「モテるからって調子乗んなよな」
手首をクルクルさせながらシェイクのカップを回す橘は肩を竦める。
「別に、俺モテませんよ?あれぇ?俺の事調べたの?気になった?嬉しいなぁ…光さんが俺を気にかけてくれたんだ」
橘の勝手な妄想に俺は慌てて弁解する。
「ちっ違うっ!!七斗が言ってたから!俺は調べたりなんかしないっ!」
「あぁ…あのちっこいのか…」
橘は視線を逸らして興味なさげに吐き捨てた。
「ちっこいのって…七斗はお前と同い年だよ。確かに身長は170ないかもしんないけど…別にチビってほどじゃないだろ」
「チビじゃん…俺、180だもん」
「そっ!それはお前がデカすぎるんだろっ」
「えー、身長はあっても困らないよ?光さんは?俺がこれくらいだからぁ…そうだなぁ175ないかな?」
「175はあるわっ!」
「ブハっ!見栄張っちゃってぇ〜」
「はってねぇっ!てかお前さっ!」
「ストップッ!!」
橘の声にビクッと止まってしまう。
「なっ何だよ」
「さっきからお前お前ってさぁ、俺の名前は橘優里…呼んでよ、ちゃんと」
「…は?」
「優里で良いからさ」
俺は真っ直ぐに見つめられ、ゴクッと息を呑んだ。
「ゆ…優里」
言われるがままに名前を呼んでしまう。
「フフ…光さん、可愛いね」
自分に自信があるからなのか、優里は俺より年下のくせにどうしてだかすぐに主導権をかっさらっていく。
シャーペンを握りなおして、無視する事にした。
先に席を立って出て行くのも癪だったからだ。
暫く問題を解いていたら、長い指がコンコンとノートをつついた。
ビクッと身体が派手に反応してしまい、顔を上げると、目の前で頬杖をついた優里はノートを指差して微笑んだ。
「ここさ…ずっと間違えてるから進まないんだよ」
俺は問1から間違えている問題を気づかずにそのまま問2で考え悩んでいた。
間違っているなら解けるはずが無いんだ。
俺は苛立ってノートを乱暴に閉じた。
「頭良いだか何だか知らねぇけどなっ!お前ウザいっ!」
立ち上がりかけた肩を掴まれる。
「光さんっ!お前じゃなくて優里っ!」
俺はハァーっっ!と強く息を吐き、髪を掻き回した。
「優里、どういうつもりで俺に近づいてんのか知らないけど、俺はお前と遊ぶ気はない!」
「遊ばなくて良いよ」
「はあ?」
「遊ばないで本気になってよ」
「ほっ!本気?…あのなぁ…優里…この辺の女は食い尽くしたのか?同い年がつまんないなら年上、紹介するぞ?」
「光さんが良い」
俺は困り果てた表情でリュックにノートやパソコンを押し込む。
「俺は無理だ」
「何で?」
「何でもだ」
「理由が必要だよ」
「おまえゲイなのか?」
俺はまわりくどく話す事にくたびれて直球で問いかけた。
「男はそんなに…女の方が楽だしね」
「あぁ、まぁ、それは分かる」
「質問の答えになってない」
「なってるさ。優里はゲイじゃない。SEXするのも女が楽、だったら俺とお前に接点はない」
「…七斗…だっけ?」
ピクッと眉が吊り上がってしまう。
「彼は知ってるの?光さんが男が好きだって」
「…知らないよ」
「へぇ…」
「脅すのか?」
ファーストフード店に似合わないシリアスな空気。それと反発するように、世間を賑わせる流行りの曲がポップに流れている。
「まさか…そんな事しませんよ」
優里は掬うように下から俺をジッと見つめた。
それは大きな瞳で、月を思わせる程に深く朱色に色付いて見えた。
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