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室ちゃんのことなら何でも知っているはずだった。小学1年生のときに教室前の廊下でお漏らししたことも、漢字ドリルをやってこなくて居残りさせられたことも、ゆう君に恋していたことも。私たちはどんなことも話し合ったし、どんなことでも報告する義務があった。
けれど、顔についた傷の由来を私は知らない。背中まであった髪を突然切った理由を、私は知らない。このところずっとだ。
隣を歩く室ちゃんの表情を、私は知らない。眉尻を下げ、瞳を潤ませ、唇は言葉を探して震えている。河川敷には、私たちの影が長く伸びている。
「ビーズのブレスレット、どうしてカイト君がつけてたの。」
見間違うはずがない。あのブレスレットは私がつくってあげたのだ。ひとつひとつ、ピンクや黄色や、ニコちゃんマークのついたビーズを選んで私がつくった。ありがとう、大切にするねと、笑っていたはずなのに。
昨日、ツイキャスでカイト君の放送を見た。私たちが応援しているカイト君は、軽快に雑談をしていた。ヘアスタイリングの実習のこと、講師の奇癖のこと。ふと、アッシュグレーに染めた髪を、かきあげた右手首に目が留まった。それは、室ちゃんの。室ちゃんの、私の、ブレスレット。
「どうして。」
「……美里には言ってなかったけど……。カイト君と……付き合ってるんだ。」
「でも、あれはあげたわけじゃ……。」
頭を殴られた気がした。ぐわんぐわんと眩暈がする。カラスが一声、カアと鳴いた。
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