56 セレクトセール

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初日を終えた事で、此のオークションに出品される基準を理解した。 「 良いのがいなかった…って顔だね 」 「 嗚呼、俺は従順な人間では無く、歯向かう強さのある者がいいんだ 」 関係者と話を終えた蒼氷(そうひ)は、俺の言葉に口角を上げ手元が見えない袖と共に、両手を広げる。 「 やっぱり君は変わり者だ!いいよ、いいよ。特別に人間牧場に案内してあげる 」 目の前で一周りした彼は、俺の左手を引く様に掴んでは、車へと案内をする。 「 ほら、乗って乗って 」 「 嗚呼…随分と話が早いな? 」 クラウドと共に車へと乗り込めば、何食わぬ顔をして俺の横へとやって来た蒼氷は、ブルー色の瞳を輝かせて笑う。 「 そりゃあ、獣の王が望むなら僕達はなんでもするさ。欲しい人間が生まれるまで繁殖だって頑張っちゃうよ 」 「 獣の王な……それは死んだ事になってるんだが 」 「 でも、使えない事は無いでしょ?どうしてそうなったかは分からないけど。こっちに王が戻って来れば十分なのさ 」 細かい話を聞く気はない蒼氷は、相変わらずと思うが、彼の賢い頭脳で答えを導き出した結果が、俺を直ぐに連れて行くって事なのだろうな。 雪虫の運転で走り出した車の中で、 彼の話に耳を傾ける。 「 晴哉、…君は次期当主になる為に動き始めたんでしょ? 」 「 感がいいな 」 「 一ヶ所から動きたがらない君が、態々こんな寒い地域まで来るんだ。その位分かるさ 」 俺が高校を卒業した辺りから、蒼氷達とは関わってるから、多少なりと理解してくれてるのだろうな…。 「 冬弥は…俺を怒らせたんだ。その位はするさ 」 「 ふはっ、やっと重い腰を上げたんだね。なにかあったら言ってよ。協力するから 」 「 見返りは? 」 何も求めない手助けは逆に、疑ってしまう為に敢えて問い掛ければ、彼は熊の手を向けるなり心臓部分へと爪を当てた。 「 君が死んだ時…その心臓を僕にくれる約束で十分。そして…僕はもっと不老不死に近付くんだ 」 「 俺の血肉なら幾らでもやるのに… 」 「 心臓は再生出来ない唯一のものだからね。一つしかないわけ。他の臓器や血肉に興味はないよ。だから欲しいんだ 」 胸元から手を離した彼は、両足を軽くパタつかせるように動かして、態とらしく凭れてきた。 不老不死…それに成る為に、多くの獣人を食らってきた蒼氷は、番を持たないαとしても俺達の中では有名だ。 例え、運命の番が現れたとしても… 彼は自分より先に愛しい者を死ぬのが見たくないから、他人に対して好意を向けない。 「( 俺に対する優しさは…、この心臓を渡してやる、と約束してるが為のもの… )」 それが無ければ、こんなに愛想良く何でも協力はしないだろうな。 「 ひとりは…寂しくないのか…… 」 何気なく問い掛ければ、真っ白な睫毛は揺れ動き口角を上げた。 「 愚問だよ。僕は好きで不老不死になってるんだ…。今更、ひとりだろうとも気にしたことないね 」 「 蒼氷らしい答えで安心した 」 自分の容姿を維持したままの不老不死となった蒼氷は、もう何百年とその姿のままひとりで北熊(きぐま) 財閥の当主として君臨している。 その足元に多くの白熊達が倒れていようが、彼は玉座に座ったままブレることがない。 其れが、北熊財閥が強い理由でもあるのだろうな……。 密かに笑った彼は、身体を持ち上げて見えてきた牧場の方へと片手を向ける。 「 あれが人間牧場。周りを高さ10mの壁で、約30km覆ってる。この国一番の牧場だよ 」 「 まるで、城郭都市(じょうかくとし)だな 」 現れた真っ白な壁は、何処までも遠くに円で囲まれ、 唯一、一ヶ所だけ入れる門へと行けば、4人の獣人の門番に挨拶し、蒼氷は顔パスで中へと進む。 幾つもの鉄の門扉がある長いトンネルを進んだ先には、純血の人間が暮らす小さな牧場が存在する。 「 強ち間違ってないけど…性別や年齢事に住んでるエリアは区切られてるからさ。獣人の都市より生活の仕方は区切られているかな 」 「 もう少し、繋がれて狭いところで暮らして居ると思ったが…広いな 」 「 出来るだけストレスフリーにしなきゃ。まぁそれでも…この中には10万人の純血の人間が暮らしてるから…ちょっと生活は出来上がってるけどね 」 中は、純血の人間達が自ら、家を建てたり田畑を作り、そしてあるもので建設すらしていた。 ゲームセンター等の娯楽はないにしろ、この中には監視する獣人を含めて、多くの者が普通に暮らしてるようだな。 「 ほぅ…… 」 「 晴哉が気に入りそうな人間がいるのは…きっとこの奥だよ 」 やって来る車に眼中すら無い者やちょっと気になって顔を上げるもの、怯えて隠れる者すらいるが、それもまた人間と獣人が近い存在だからだろう。 もし、全く心が無ければ…こんな反応はしない。 様々な純血の人間を見ていれば、車は更に進み中央の大きな建物へと辿り着く。 「 3匹集まると群れが出来るネズミと同じく、人間も群れが出来て、其の中に犯罪を犯す者すらいるんだ。そういう奴を捕まえていれる…言わば禁錮であり、人肉加工場だね。犯罪者は強制的にお肉だよ 」 「 ほぅ……? 」 大きな建物は外見は病院の様にも見えるが、中は加工場である工場なのか。 確かに、此処の方がいいな…と納得し車から下りてから、蒼氷の後ろを着いて歩く。 中はごく普通の肉加工所と似ていて、生きた人間がレーンに座るように乗り、首から繋がるチェーンに引っ張られ、運ばれる。 「 殺し方は至って簡単なんだ。脊髄に電流を流して気絶させた後に、電動ノコギリで首を落として、逆さにして血抜きだよ。各部位毎に解剖されて切り分けられて、パック詰めされて珍しい肉を取り扱う店に行く。後は貴重部位はお得意さん達に運ばれるんだ 」 「 ほぅ…… 」 ガラス越しの向こうでは普通の肉の様に加工される人間を見ると、紫黒を連れて来なくて良かったと思う。 「 そういえば、人間のフォアグラも美味しいんだよ。夕食に出してあげるね 」 「 楽しみにしてるさ 」 食いはしないが…と言う言葉を伏せたまま工場の見物ついでに歩いていけば、蒼氷は別の場所へと入る。 「 ふふっ…此処がこれから肉になる者達。まるで豚でしょ 」 「 嗚呼…… 」 薄暗い中には、服を着ることなく身体にバツ印が描かれた純血の人間は、生きる気力を失ったように其々に俯いて座り込んでいる。 「 全員犯罪者。病気持ちはここにはいないよ。加工するレーンが別だからさ 」 ルールに背かなければ死ぬ事は無い。 そういう連中だからこそ、自分の行いに後悔してるのだろうな。 「 どういう犯罪なんだ? 」 「 窃盗、暴行、性犯罪…。後、逃亡をはかったり色々。獣人ですら処刑されたり、処罰される内容ぐらいだから…俺は結構優しいもんだよ?他の牧場じゃ、見た目の云々で即お肉だからね 」 「 嗚呼…なるほどな 」 歩いて見て周りながら、ふっと他の連中とは違って、一人部屋のように檻に入ってる人間を見掛け脚を止めた。 「 此奴は、なにをしたんだ? 」 「 嗚呼…今日、お肉になる予定のやつだね。警備員として配置してる獣人を襲ったんだ。つまり暴行沙汰を引き起こしたんだ 」 傷だらけの身体は、罰する為に鞭打ちの刑を食らったのだろう。 片膝を抱えて俯せになってる男を見ると、昔の俺を思い出す。 「 何歳だ? 」 「 18かな…、もうちょっといってたけ?容姿が良くて繁殖用に置いてたんだけど、雌と繁殖してくれないから労働側に移動させたらこの沙汰だよ。たまに居るんだよね。無駄に自我が強い奴 」 「 ほぅ……? 」 呆れるような蒼氷の言葉に、緩く口角を上げ男へと視線を上げる。 「( 顔を上げろ )」 人間の言葉を使うのは癪に触るが仕方ない。 敢えて、言葉を発して問い掛ければピクリと顔を上げた雄は、俺を見上げてきた。 純血特有の黒髪に、墨のような瞳。 そして英国の血が入ってるのか色白でありながらしっかりとした体格をしている…。 「( 口を開け、喋れるだろ? )」 「 ッ……!! 」 獣人から話し掛けて来るのが始めたのだろう。 雄は、目を見開けば鎖を揺らし檻の前まで来れば、手を伸ばしてきた。 「 コロシテヤル……!!バケモノ…!! 」 白い歯を剥き出して怒ってるような人間に、俺は少しだけ感心した。 此奴…獣人である俺より少し低い程度の身長だ。 あぁ、α寄りのβなのか。 だから、繁殖個体だったのか…。 納得した。
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