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56 セレクトセール
「 ははっ、人間が欲しいなんて、どういう風の吹き回しなんだい? 」
雪虫によって部屋に運ばれた朝御飯を、蒼氷と共に食べながら、笑って問い掛けてきた彼に黙っている必要も無い為に答えた。
「 必要だと思ったから買いに来ただけさ 」
「 雰囲気からして君のペットじゃないね?まぁいいよ。金額は安くて10万から高くて億は行くよ。見た目と能力に大きな差はあるから、その位は必要かな 」
春のセレクトセールは通常3日間続けて行われる。
此処が最初のセリ故に、全国から一押しの人間がやって来ては、オークションにかけられる。
ペットショップ等のオーナーも来るが、個人で買いにくる上級貴族は多い。
俺も今回は個人で買う為に、初日である今日からやって来たんだ。
「 最近は外国とのハーフやクォーターも多くてね。少し前みたいに、この国の固定種は人気無いんだよ 」
「 そういうものなのか 」
「 そっ、肌の色は白人寄り、髪は赤毛、身体のバランスとか…オーダーが増えてさ。結構交配させてるんだ。でも、純血の人間には変わりないよ?獣が混じってない分、言葉は賢い人間以外は通じないけど 」
俺達の言語は独特で、獣と人間が交じったような話し方をする。
純血の人間から聞けば、只獣達が話してるように聞こえるかも知れないが、学習能力がある人間は良く学んで単語を覚えていく。
そう言う知能がある人間は、また値段が跳ねることも知っているさ。
「 ほぅ……獣と似たようなものだな 」
「 獣みたいに繁殖能力高くないから、貴重性は高いけどね。体力を考えて3年に一度しか産めないし、雌は40歳までが限界。生まれてきたとしても上手く見た目が交配されるかも分からない。だから貴重性も上がるんだけどね 」
獣人の中には、人型になれない獣を飼う輩もいるのを知ってる。
ペットショップなんてものが存在するのだから、人間も似たようなものだろうと聞いていれば鮭を切り分けながら食べてる蒼氷は、溜息を吐く。
「 後、性格が気難しくて懐き辛い奴もいるのが難点。主人と認めてさっさと懐いた個体は扱いやすいけどね 」
「 躾しやすい年齢は? 」
「 そうだね。余り若い個体は死にやすいから出してないし。僕のところでするオークションはいつも16歳からなんだ。それより下は反抗期って面倒な時期になるから、結構こっちでしつけちゃうわけ。だから扱いやすいよ 」
人間で言う16歳は、獣人にとってはまだ若いぐらいだろう。
基本を余り見たことないから実感はわかないが、虫人の様に扱いやすい年齢からの人間なんだと納得すれば頷く。
「 ほぅ?なら…丁度いいのか 」
「 希望の性別とか、容姿とかある?追加でオークションで流してあげてもいいよ 」
「 特にない。直感で選ぶ 」
「 君らしい。良いよ、どんな子を選ぶか楽しみだ 」
軽く笑った蒼氷に、俺もまた少しだけ笑みを返した。
食事を終え、服を着ればすぐにセリ市へと向かう。
車で移動すること1時間半。
大きなドーム状の建物にやってくれば多くの車やトラックが停っていた。
「 彼をVIP席に招待してあげて。僕は他の連中と話があるから 」
「 畏まりました。晴哉様、此方です 」
「 嗚呼 」
獣の姿をしたクラウドを連れ、雪虫に案内されるまま会場へと入る。
3階のVIP席へと案内されれば、中央にはステージがあり、それを囲むように多くの席が存在する。
ステージの上には番号と金額が表示される電子板もあり、本格的だなって思った。
「 金額はこの手元にあるタッチパネルで入札のボタンを押して下されば、自動で最初は1万ずつ上がっていきます。押す人数が二人に減った頃から100万から1000万単位になります。もし、それ以上の入札金額を考えた場合、即決を押してください。此方が決めた最高金額での落札となります 」
「 分かった…… 」
「 では、此方が初日のリストです。お飲み物をお持ちしますね 」
説明を聞いた後にリストを渡せれた為に1枚捲ってみれば、5世代前からの血統が書かれ、その人間の誕生日、性別、血液型、身長、体重、その他諸々が事細かく書かれていた。
写真はどれも真正面と左右と後ろ姿、そして衣服を着てない状態の全身が載ってある。
正に家畜同然の扱いだなって思うが、これが獣人の娯楽なのだから仕方ないだろう。
「 我が主…。本当に人間をお買いになるのですか? 」
「 いい奴がいればな 」
おすわりの状態で会場を見ていたクラウドの背中の毛を撫でるように触れば、ウルフは後ろへと耳を下げた。
「 あれほど…飼う者に理解出来ないと仰っていたのに… 」
「 あんな繋いで歩かせたりはしないさ。俺はもっと利用価値を与えるんだ 」
「 ……クゥーン 」
理解出来ない。
そう言いたげなクラウドに無理はないと思い、背中から手を離し頬杖を付きながら見ていれば虫人はイネ茶を置いて、俺の椅子の後ろへと立った。
「( 時間だな… )」
いつの間にか満席と言える程に獣人達が集まれば、ステージに蒼氷が立つ。
「 やぁ、お集まりの皆さん!こんにちは!主催者の北熊 蒼氷です。この春に相応しい晴天の下。今年1回目のセレクトセールを開催出来る事を心から感謝感激いたします! 」
袖の長い白い服を着て、大袈裟に両手を広げて話す蒼氷に、ここに居る全員の目が向けられる。
「 本日は初日ともあって100人の16歳〜20歳を用意させて頂きました。血統と品質に拘り1体でも皆様の目に止まれば、一同嬉しく思います 」
彼の挨拶共に拍手が鳴り響けば、大きく頭を下げた彼はその場を離れると、次は司会が立つ。
「 では、まず1体目は此方です 」
首に枷をされ、鎖で繋がれた衣服を身に着けていない、16歳の人間の雌。
獣人に引かれるようにステージ上へと立てば、セリは始まった。
「 珍しい純血の国産です。生まれた時から切らずに伸ばした美しく長い黒髪に小顔、そして国産特有の黒い瞳。月経 経験済みの繁殖可能個体。1千万から初めさせて頂きます 」
月経とは生理であり、雌が母親として熟してるどうか決まるものである。
「 2千万、5千万、おっ、8千万が出ました 」
純血の人間は、獣人と違ってβしか存在しない為に
雌は子供を産むのに最適な身体である事が条件の一つとして含まれていたりする。
そしてこうした純血の人間を買った獣人が、好きなように交尾を仕掛けて子供を産ませ、その子供がまた別の獣人と掛け合わさったのが、嵐の家系を含めだ雑種 ゙と言われたものだ。
最初は只の人間でありながら、獣人が交じることで雑種と呼ばれる…。
雑種が減らないのは、こうしたオークションが常に行われてるからだろう。
「( 雌は、悩むな… )」
避妊させるにしても、勿体無いと思うからこそ雌を買う気にはならない。
「( それなら雄か…体力もあるしな )」
「 8,500万での落札が決まりました。320番のお客様。おめでとうございます 」
早々に1体目が終われば、次のが現れると同時に何気なくリストのページを捲る。
「 続きまして16歳の雄。西欧とのハーフとなります。赤毛の髪に黒い瞳。そしてこの肉体。繁殖は未経験の為に買ったお客様がお教えしてあげて下さい。それでは…1千万から初めます 」
雄の場合は、奴隷か雌の獣人の遊び相手になることが多い。
その為に、容姿と肉体は絶対条件に含まれてる為に、痩せ過ぎても太過ぎても好まれない。
丁度いい肉体の為に、金額は跳ね上がる…。
けれど、此のオークションは只ペットになるだけのものが売られるわけじゃない。
「 9800万での落札が決まりました。126番のお客様。おめでとうございます。続きまして食用に最適な人間をどうぞ 」
そう……。
食用となる人間だ。
年齢が20歳からなる者が多く、
其の中には、ある事をした者が選ばれる。
「 3体目は20歳の雌。掛け合わす雄以外と交尾をした事で性病を得た為に食用となります。まだ若いので柔らかい上品な肉となり、その腹には子を宿していますので、珍味となりましょう。但し遊び相手には向きません。病気が移りますので…。価格は1万円からスタートしましょう 」
性病…人間同士でしか発症しないものだが、それが獣人にも移る事がある。
性病を持った獣人は決まって処刑される為に、手を出そうなんて馬鹿な連中はいない。
だからこそ、食い物としては優秀なんだ。
「 5万、10万、13万。宜しいですか?では13万での落札が決まりました。4番のお客様。おめでとうございます 」
このセリでは、誰がどの番号を持ってるかは主催者側しかわからない。
その為に、ここにいる誰もが好きに買えるのだ。
ちょっと高めの肉を買う程度…そんな金額にしかならない人間は、獣人を見た後に泣きそうな顔をしてその場を連れて行く。
「( 泣くぐらいなら病気の奴としなければいいだろうに……… )」
純血の雌は、1年中発情出来る程の欲を持し、雄もそれに答えられる。
だからこそ、下手に繁殖する個体もいるのも事実。
心がないわけじゃないんだ…。
人間同士でも恋愛なんてことはするだろう。
「( 今日はいいやついなかったな… )」
欠伸をしながらセリを見ていれば、
いつの間にか100体は呆気なく終わった。
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