57 純血の人間

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57 純血の人間

檻と多少距離を開いて立っていた為に、傷だらけの手は届きはしなかったが、其れでも雄は睨む。 「 凄いね。片言だけど僕達の言葉を喋れるんだ?感心するよ 」 「 理解力が高いなら十分だろ。此奴をくれるか? 」 「 え、こんな…人肉間際の奴がいいの?もっと良いやついるのに〜。まぁいいけど 」 雄を見ていた蒼氷(そうひ)は少し驚く素振りを見せるもニコッと笑って笑顔を向ける。 「 2億で買わせて貰う。前金として持ってきたが…十分だろ? 」 「 十分過ぎるよ。喜んで売らせて貰う、それで如何する?気絶させようか? 」 「 いや必要ない。服従させる 」 「 へぇ…いいよ、見てるね 」 白鳥と違って、蒼氷は利益になる事は好きな為に金はあるだけ受け取る。 簡単にこの雄を差し出せば、俺から少しだけ距離を置いた為に、仕方なく雄を見下げては口を開く。 「 伏せ 」 「 !! 」 まるでペット同然の犬に言うように伝えれば、人間は目を見開いてからその場で両手を付き頭を下げた。 「 ッ……!! 」 動かない身体に戸惑う様に奥歯を噛みしめる様子に抗おうとする意思が強いなと分かれば、俺もまたしゃがみこむ。 「 左手を出せ 」 人間は、檻の隙間からもう一度左手を出せば獣の爪を出し、手の甲に押し当て傷を作る。 「 !!?? 」 痛みで身動きをした人間は、其れでも引っ込める許可が出てない為に我慢するしかない。 傷を付けて血が出れば、俺もまた左手首を噛み切り、血を流し彼の手の甲へと血液を落とす。 これは、ダイアウルフ達と行った契約と近いものがある。 「( 白虎である晴哉の名の元に。御前を我が下僕としての契約を繋ぐ。我の盾であり、剣となり、この命尽きるその時まで、逆らう事を禁ずる )」 同意では無く、一方的なものだからこそ本人の心境を一切気にせず繋ぐ契約は、奴隷として買う獣人が良く行うが、俺の場合は言霊が乗る為に其れより重い呪縛となる。 見えない首輪と鎖で繋がれた人間に、名前を考えれば思いついたものを与えた。 「( 勇騎(ゆの) )」 「( ッ、ゆ…の……? )」 番号程度しか振り当てることのない純血の人間。 個別の名前だと理解したのか、少し戸惑うように目線を上げた為に、丁度いいと血の契約を続行する。 今回、玲を見て知った血の使い方があるからな…。 それを試させて貰おう…。 「 偽りの獣の皮を被り、俺の元で暮らせ。俺の血と能力を10%与えてやる 」 「 !!っ、ぁ゙あ゙あっ!! 」 片手を出したまま勇騎は、身体の痛みに悶え苦しみ始め、人間の手は獣と変わり姿形も変化する。 「 へぇ…流石、王。600振りにその能力を使えるやつを見たよ… 」 ポツリと呟いた蒼氷は、面白いものを見るように後ろから勇騎を眺めていた。  「 グルルルッ…… 」 「 上出来じゃないか 」 純血の人間は、純血の獣人の血が交じることでその能力を習得した。 黒い毛皮、ゼブラ柄の模様、そして鋭く光る金色の目を向ける勇騎を見て、口角は上がる。 100%の獣へとなれば、横たわってる彼に言葉を続ける。 「 そこから20%まで下げるんだ。やれ 」 「 !!グッ、ガッ……!! 」 初めて変化するなら、身体の組織は変わるのだから、焼けるような痛みが内部から襲う。 痛みを感じながら獣は僅かに人形を得ていき、80%で止まった後に、 次の変化である60%、30%…そして、20%で落ち着く。 「 ハっ、ぁ、っ…はっ、く、……ッ… 」 「 良く出来たじゃないか、偉いぞ勇騎 」 黒い虎の耳、そしてゼブラ柄の入った尻尾を持った姿に褒めれば、勇騎は荒い呼吸をしてから背後を振り向き、自分の尻尾を片手で触ってから、握った。 「 っ!!! 」 「 なに馬鹿な事をしてるんだ? 」 自ら根元から引き千切った尻尾に、俺はしゃがんでいたのを立ち上がり見下げる。 「 だれ、が……おまえ、ら、と同じ…バケ、モンに、なる、かよ…はっ、はぁ… 」 「( 王の力を前にして、この位抗う事が出来るのは…凄いな )」 俺ですら逆らえなかった白叡の言葉も、此奴なら平気なんじゃないか?と思う。 「 別に好きなだけ自傷してもいいが、俺の一言で治ることを教えてやろう。…傷を治せ 」 「 !!!いっ……!ッ!! 」 「 尾てい骨の骨が皮膚を突き破って、尻尾として骨が成長していき、皮膚が再生する痛みは…さっきの変化よりキツイぞ? 」 トカゲの尻尾が超高速再生するように、勇騎の尻尾もまた同じ様に生えれば、 流石に痛みを自覚したのか、2回目を引き千切る事は無かった。 自傷を、馬鹿みたいにする奴ではないな。 「 はっ、ッ……くっ…… 」 「 後、御前は逃げることは出来ない。俺が首輪をしてるんだ。何処に行こうが分かる。暴言を吐くことは許すが…傷つける事は出来ないぞ? 」 「 ふざ、け…!!ぁあ゙っ!?ッ!! 」 「 出来ない、と言ってやったのに… 」 殺意を向けた瞬間に、呪縛によって心臓が握られたように痛み、そして首を絞められたような苦しさが襲う。 それは殺意が無くなるまで続く為に、抗う間は死にそうな程に苦しむ。 だが、死ぬことはない…。 俺が許可するまで、不死のように死ねないんだ。 まぁ、心臓を抜き取れたりすれば流石に死ぬが… 致命的なダメージ位なら回復するさ。 「 ぅ、っ!グッ…! 」 締まる喉に片手を当て、反対の手は痛む心臓部分を押さえて、苦しむ勇騎を只黙って見詰めていた。 次第に、殺意が消えたのではなく酸素が脳に回らず気を失ったのが先だった。 「 あらら、気絶したんだ?血の契約に抗おうとするなんて…自我が強すぎ。この際に、消したら? 」 「 いや…自我はあって構わない。此奴を連れて帰る。開けてくれるか? 」 「 僕なら消すけどね。なんで必要なのか分からないけど…どうぞ 」 指を鳴らした蒼氷によって檻の扉は開き、俺は中へと入れば枷と鎖を外し、尻尾と同時に怪我は治ってる、薄汚い勇騎を掴んで肩へと担ぎ上げる。 「 良い買い物が出来た。帰ろうか 」 「 ホテルで彼を洗うでしょ?僕の雪虫が手伝うよ 」 「 嗚呼、助かる。クラウド…行くぞ 」 「 は、はい!我が主 」 少しぼんやりしていたクラウドはハッとしてから、俺の後ろを着いてきた。 ウルフにとって逆らうなんて、考えても無い事だろうが、もし逆らった時の事でも考えたのだろう…。 如何なるか、なんて経験しなければ 分からない事だからな。 「( 俺の立場が危うい!?此の人間、敵かも知れない!俺が一番、我が主に忠誠を誓ってるのだからな!ふふんっ )」 そんな馬鹿な事を考えてるなんて知らず、俺達は牧場を後にした。 ホテルに戻るなり気を失ってる勇騎を雪虫達に任せてから、夕食の時間となる。
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