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「 ひゅーまぁ…俺はもう、駄目だ…不能だ…チンコ取った方がいい… 」
「 呑み始めて3分で、そんなに泣くな。それに少しは人目を気にして… 」
彼は焦げ茶の髪色をし銀色の瞳を持つ、俺の仕事のパートナーであり、秘書兼副社長の…
豹牙 飛由真27歳。
そして、幼稚園時代から肉食系猫科の獣人同士の付き合いとして、両親が仲いい為に俺達も仲良くしてる。
彼は俺より一つ歳上なのだが、弟というか…
最早同じαとして話をしてるのだが…、
一人で呑むのが寂しいからと呼んだら、凄く眉間に皺を寄せられた。
でも、呼んで直ぐに来てくれる辺り、優しい…。
彼は豹という名字だが、種族はピューマになる。
だから、豹のように耳やら尻尾に模様はないし筋肉質で格好いい。
αなのに秘書としての立場が勿体無いと思うが、彼は俺と一緒に仕事をしてくれることを楽しんでるし、優先してくれてるから今の立場に満足してるみたいだ。
因みに、威厳の無い俺の代わりに…
なにかあったときに威嚇してくれるのは、彼の役目だ。
威厳感半端ないから、大半のβからΩは引いてくれる。
「 だって…射精出来ないαなんて、必要ないから…って言われたんだぞ…もう、いらないチンコを取るしか… 」
「 去勢したところで、御前が役立たずなのは変わらないだろう 」
「 グフッ……幼馴染みに対してのキレのない言葉…流石に、弱ってる心臓を貫いた… 」
優雅に酒を呑んでる飛由真の言葉に、吐血する勢いでテーブルに顔を伏せた。
「 今に始まってないことを、なにをそう悩む必要ある 」
「 ゴフッ… 」
「 御前は元々αの中でも外れ者だったろ 」
「 ひゅーまぁ…俺のライフは、ゼロよ… 」
外れ者…確かにその通りだからこそ、鋭利な言葉がズケズケ刺さってきて、涙がちょちょ切れる。
「 知るか。大体、そう言った理解をし合ってない内にヤるから問題になるんだろ 」
「 なに、じゃ…イケないけどヤろ?って聞くのか?あんな…イヌ科に凶器と叫ばれて怯えたモノを、只使いたいって言うのか? 」
「 ……それもそうだな。怪我必須の陰茎使われて、妊娠しないなら…ヤラないか 」
ネコ科のα…というか、攻め達は受けに妊娠を前提に交尾をする。
パートナーが痛がるのを見たくないからだ。
中には無理矢理して、その痛がるのを良がって見てる、変態な趣向を持つ奴もいるが…
俺や飛由真は、出来るだけ痛がるのを見たくはなかった。
「 でも、飛由真…子沢山じゃん… 」
「 5匹いるからな。双子と三つ子 」
「 可愛い…!ズルい…俺も子供欲しい… 」
飛由真は20歳の頃にパートナーを見つけて、最初に男女の双子、そして3年後に三つ子の男の子が生まれていたイクメンパパだ。
獣人は双子や三つ子率が高くて、最近のニュースじゃ、齧歯類のメスが八つ子を産んだって話も上がってるぐらい、子供は多く生まれる。
俺も…飛由真の子供達を見てると可愛いな、欲しいなって思うが……
「 イく事さえ出来れば…俺は今頃、子沢山だったのに…… 」
「 まぁ、βは浮気される確率はあるが…Ωは番にさえなれば、どんなにαを嫌っても一途だからな。孕ませて産ませる事は出来るだろ 」
「 いや、俺は同意の元で…子供欲しい… 」
βは人口の半数を占める程に多く存在する。
俺や飛由真がαであるのが珍しく、さっきの黒猫がΩであり、番も存在せずにウロウロしながら、声を掛けられたらヤるってのも珍しいぐらいにΩの数も少ない。
Ωは雄でも孕むことが出来る体質を持ってるが、αを刺激するぐらいの強いフェロモンが放つ発情期が来る為に、一昔前は社会性地位が低かったのだが…。
今ではそのフェロモンを抑える薬や避妊薬も、婦人科で無償で貰えるようにまでなった。
その事で、Ωは社会性地位も安定し、実力さえあれば社長だってなってるやつもいる。
エリートのΩが生まれる時代に、
俺のような出来損ないのαの方が社会性も低い。
「 お前のそういう、相手に対して優しいところはモテる要素だと思うんだが。ベッドの方が残念だと、最早可哀相だな…ククッ 」
「 ゴフッ……ひゅーまぁくん、今日はヤケにトゲがある… 」
Ωには貶されて、αの幼馴染みには可哀相、と言われる始末。
俺はもう…社内性価値もないαなんだと思うと、泣きたくなってくる…泣いてるけど。
琥珀色のウィスキーを揺らして、一気にロックグラスを煽っては、強くテーブルに置いてウェイターへと視線を向ける。
「 もう一杯! 」
「 仕事始まったばかりなんだが… 」
今日が月曜日なんて知るかよ。
呑みたいときに飲む!そう決めてから、横でゆっくり呑んでる飛由真を余所に、浴びるように呑んでいた。
「 はぁ……次、次の…酒は… 」
「 呑み過ぎだろ。ほら、ちゃんと歩け 」
「 ……嗚呼、空気が冷たい 」
「 酔って身体が火照ってるだけだ。寧ろ、空気は6月だから生暖かいはずなんだが… 」
梅雨に入りジメっとしたこの気温。
けれど今は、涼しい程だと感じれば飛由真に軽く支えられるままにゆっくりと自分の家がある方向に歩く。
会社から近いから、そこまで離れた場所では呑まないために馬車やタクシーなんて必要ないぐらい、すぐに帰れるのだが…
足取りがフラフラするから、遅くなる。
「 んー…?飛由真、凄くいい匂いしないか?甘ったるい…洋菓子みたいな… 」
「 は?しないが? 」
「 こんな時間に開いてるケーキ屋でもあるんだろうか… 」
すんっと鼻を動かせば、湿ってジメッとした空気とは違い、甘く美味しそうな匂いがする為に、ふらっと脚を向ける。
なんで飛由真には分からないのか、ちょっと理解できない為に、彼が支える腕から離れて、匂いがする方向へと誘われるままに脚を向けた。
「 ちょ、晴哉待て! 」
どんどん裏路地を歩いていく俺は、大通りに出れば左右を見渡した後に匂いを嗅いで、歩いていく。
急いで着いてくる飛由真の声は何処か遠くに聞こえるまま、俺は匂いを放つものを見つけた。
「 …えっ? 」
パシっと掴んだ手首、俺より少し身長が高い男が、驚いた顔で振り返り目が合えば確信する。
「 見つけた…。お前…俺の運命の番だ 」
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