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01 運命の番
運命の番…。
αとΩにだけ存在する特殊な相性で。
遺伝子的相性が100%の相手であり、
生涯の中で出会う確率は0.002%。
人口の増加によって、更に会う確率は一昔前より減って、この数値はもっと低いかも知れない。
飛由真だって、仲の良いΩと番となって結婚したが、それも運命の番ではなかった。
けれど、俺は他のΩに感じたことのない匂いに気付いて会う事が出来た。
飛由真が分からなかったのは、番を持ってるからってのもあるだろうが…
彼のこの匂いは発情期のフェロモンではなく、
単純に運命の番だから分かる匂いなんだろう。
「 え…っ……!! 」
掴んでるとはいえど触れた事で、気付いた彼は大きく目を見開く。
俺の運命の番が、獣人でもなく、人間の雄だった事に少し驚いたが…この際なんでもいい。
「 間違いない。御前は、俺の運命… 」
「 晴哉!ったく…急にどっか行くなよ 」
掴んでいた手とは逆の手で頬に触れようとすれば、背後から聞こえた声に身体は硬直してそっと手を下ろす。
「 飛由真……俺の運命の番を見つけた 」
「 は?え…? 」
困惑してる彼は、近付いてきて俺の少し後ろに立てばΩを見詰めた。
「 確かに気配と匂いはΩだが…御前は夜が… 」
「 っ!! 」
「( 夜? )」
嗚呼…そうだ…
俺は運命の番を見付けた事で、繁殖出来ない落ちこぼれのαだ。
匂いに誘われてきたが、こんな出会いは間違ってるし、会いたくは無かった…。
「 今の…忘れてくれ……。すまない…! 」
前髪で目元を隠していたから、満足に顔は見えなかったけど、好意が向ける前に離れる事が出来て良かったと思い、背を向け逃げ出した。
…………
……………
〜 嵐 視点 〜
「 あ、ちょっ、晴哉!そっちは家じゃないだろう…ったく…… 」
明日から伺うことになった、会社の位置を把握しとこうと出歩いていた矢先、背後から掴まれたことに驚いた。
そして、一言目に発しられた言葉に俺の心の中でぎゅっと締め付けられる感覚と同時に
゙見つけてもらっだと言う嬉しさがあったのだけど…。
彼は直ぐに逃げて行ってしまった。
取り残された俺と、顔を知る獣人の男性に視線を戻し、掴まれた手首に触れながら、問う。
「 今の…ホワイトタイガー社の白虎社長ですよね? 」
「 ん?あぁ、よく分かったな。そうだぞ…君は…って、まさか… 」
「 はい、会うのは2度目ですね?地方支部の方から人事異動をされた、兎月 嵐と申します 」
その手を胸元へと当てて言えば、俺より背の高い彼は、ポカーンと口を開いてから髪をクシャッと掻いた。
「 Ωが来るとは聞いてたが…まさか、御前とは…。先月のファッションショー見事だった。其のお陰で…こっちの売上を伸ばす為に来たんだろうがな… 」
「 お褒め頂き光栄です。売上を伸ばすというより…本社の方の仕事風景を見せてもらって、参考になれば…と、思ったのですよ 」
「 仕事風景な…支部とは違って、獣人が多いからマイペースで自由だぞ 」
俺は地方支部の支店長であり、ファッションショーなどを手掛けるプロデューサーでもあった。
その事から、会社の社長に本社の方に研修を兼ねて手伝いに行き、売上を伸ばすことを協力しつつ、仕事の雰囲気で参考になるところは持って帰るように言われた。
彼の言った通りに支部は人間が多く、獣人は少ない。
大体、獣人の多くは都心に集まってるために、支部の方にいる獣人は俺と同じくΩやβだった。
ここに来て直ぐに、さっきの兎月社長と共に豹牙副社長のαを見れるなんて思わなかったからね。
地方なら、ほぼいないし…。
「 それこそいいじゃないですか。明日が楽しみです 」
「 明日、な…。彼奴が動揺しなければいいが… 」
「 そうですね…運命の番と言われて、俺もちょっとびっくりしましたし…。逃げられたのは…ショックですけど 」
「 その件だが、少し話がしたい。時間はあるだろうか? 」
「 えぇ、構いませんよ 」
出来れば、ビルを見てから自由行動にしたかったのだが…
彼が深刻そうな顔をする為に、俺は直ぐに承諾した。
「 探しに行かなくていいんですか? 」
「 構わないさ。どうせ今頃、家に帰ってるさ 」
「 近くなんですね? 」
「 嗚呼、そこに70階建ての高層ビルが見えるだろ?その最上階に住んでる。因みに君の背後にある、あの80階のビルが本社だ 」
「 …あ、分かりました 」
サラッと教えられた事に探しに行く隙が省けたと思うが、家と仕事場が向き合うように隣接されてる中で生活ってどんな気持ちなんだろうか。
俺はずっと車で1時間半の場所を通勤してたから、徒歩で移動できる距離はちょっと羨ましいとも思った。
「 さて、呑みに行こう。彼奴の運命の番には、事前に教えておきたい事が山のようにあるからな 」
「 はい……? 」
どんな事があるのだろうか?
ちょっと疑問に思うけど、支部の上司達が言ってたように、豹牙副社長は怖い印象は無い。
物腰が落ち着いてて、柔らかい笑みを浮かべる人だなって思う。
どちらかと言えば、俺の手首を掴んだ白虎社長の方が喰われそうって思うぐらいに怖かったし、ちょっと震えてしまった。
「( 見た目はドストライクって位に可愛いんだけどさ )」
彼が運命の番か、それはちょっと嬉しいと思っては着いていく。
仕事場があるビルの近くにある居酒屋に来れば、彼はビールとつまみの焼き鳥を注文しては、本題に入る。
「 これは口外しないで欲しいんだが、彼奴はイく事が出来ないんだ 」
「 え……? 」
「 つまり、繁殖が出来ない。だから逃げたんだ 」
もう少しオブラートに包んだような話かと思っていたけど、余りにも単刀直入に言うから、チューハイを呑もうとした手は止まり、目の前に座る彼を見つめる。
「 本当は、彼奴の口から伝えればいいんだが。本能のままにヤりたくなることもあるだろ。そういった時に御前が困らないように…そして、晴哉がこれ以上傷つかないように言っておく。彼奴はイケないことをコンプレックスに思ってるんだ 」
もし、これから先…番となるであろうαが…
繁殖できないって個体なら、どう思うだろうか。
俺は…正直、辛かった。
子供は好きだし、いい人がいればって考えていたから彼の言葉に、少しだけ声は震える。
「 それは、精子が作られないってことですか? 」
「 いや、繁殖機能にはなんの問題もない。只単純にイケないだけさ。遅漏とかのレベルじゃないようだ 」
「 あ、じゃ…大丈夫です 」
「 大丈夫って? 」
てっきり、繁殖機能がないと思っていたからショックを感じていたけど、今までの相手でイケなかったと聞くなら、それは寧ろ優越感に浸る。
あんな見た目が可愛い子が、俺とヤッて初めてイくって考えるだけで、子宮あたりがキュンキュンするよ。
「 俺が、イかせて上げるようにしますから 」
「( このΩ…強いな…… )」
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