02 ガマンできない

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02 ガマンできない

「 晴哉様。おはようございます、朝ですよ 」 「 ンッ……… 」 いつの間にか寝ていたらしく、爆睡してた俺は、軽く聞こえてきた執事の声と揺すってくる感覚に薄っすらと意識を浮上させた。 夜行性だから朝が苦手故に、目覚まし掛けても起きれないから、こうして住み込みの使用人兼執事に任せている。 「 ほら、起きてください 」 「 おき、てる…… 」 「 それを起きてるとは言いません。ちゃんと身体を起こして、起きてください 」 枕に顔を埋めていたら、掛布団を剥ぎ取られた為に少しだけ身を丸めてから、ゆっくりと起き上がりうつ伏せのまま両手を伸ばし、軽く腰を上げて背伸びをする。 「 ふぁ〜、起きた… 」 「 えぇ、お目覚めですね 」 大きな欠伸を終え、ベッドに座り直せば執事は持ってきていた温かいタオルを差し出してきた為に、それを手に持ち顔を拭く。 「 お目覚めになったばかりですみません… 」 「 ん? 」   なんだ?と顔を向ければ、彼は背中を向け紫かかった蝶の翅を広げては、苦笑いを浮かべた。 「 ボタンを留めてもらっていいですか…? 」 「 嗚呼… 」 彼はカラスアゲハの虫人で、昔から白虎家に仕える執事の松江。 名を(あげは) 紫黒(しこく) 28歳。 獣の獣人と昆虫系の虫人は、身体の機能が違う為に、例え交尾しても子が生まれることはない。 昆虫は、人間も知ってるの通り…小さい卵をいくつも産むからな。 それと同じく、爬虫類、鳥類も同じ種族じゃないと数は増やせない。 Ωが人間だった場合、彼等の能力を一切引き継ぐことなく、人間の子が生まれる。 そういった仕組みになってる為に、紫黒は20歳の頃に同じく使用人の蝶のメイドであったΩとお見合い結婚の末に、何人もの子がいる。 その子供は白虎家の使用人として、今も本家の方で、母親と一緒に生活して育てられてるだろうな。 翅が弱い昆虫系の虫人にとって、力のある獣人に逆らうのは、自身の命の前に一族が殺される危険もある為に逆らうことをせず… 共存を優先している。 食べるものも違う、繁殖もしない。 その為に、βである紫黒も、嫌な顔をせず俺の元にいる。   肉があるのに…虫を食べる趣味はないからな。   「( 相変わらず…面倒な服だな )」 鳥類を含め、背中に羽がある鳥人や虫人の服は獣人の尻尾を出すズボンの構造と似ていて、背中にいくつもの調整用のボタンが付いてある。 それを使って翅を出しながら背中を隠すように、24個のスナップボタンを付けていく。 「 とりあえず、シャツは出来た。次、上着な 」 「 はい!お願いします。ちょっと着ますね 」 いつも…ではないが、ボタンの数や種類によって身体の柔らかい紫黒はやるのだが… このスナップボタンは硬かったから難しかったのだろう。 本家からの使用人用の仕事着の支給品とは言えど… もう少しどうにかならないものか、といつも思う。 ベッドに置いていた上着を取り、両手を通してから背中に布を向ける為にそれを持って首後ろのうなじから留めて、1つずつ付けていく。 「 首、苦しくないか? 」 「 大丈夫ですよ 」 「 そうか… 」 カラスアゲハ特有の黒い翅に、先端に青いコバルトブルーの光る部分を見ては、美しいと思う。 このタイプの虫人は、顔も良いが健康状態で翅が、更に輝くから分かりやすい。 「 なぁ、紫黒… 」 「 はい。どうしました? 」 ボタンを留めながら、昨日のことを話してみようと思った。 こいつが15歳、俺が13歳の時から一緒にいるのだからそういった話も普通にする。 「 夜に…運命の番と会った。でも、俺は不能だから、申し訳なくて逃げてな…。なのに…会いたいと思ってしまうんだ 」 「 会えばいいと思いますよ。運命の番とはそう簡単に会えるわけではありません。だからきっと…晴哉様を受け入れてくれますよ 」 ボタンを留め終わったタイミングで振り返った紫黒は、黒手袋をした両手で手の平を握ってくれば、彼の言葉に少しだけ笑みが溢れる。 「 そうだといいんだがな…。会えたら、連絡先ぐらい聞きたいものだ 」 「 きっと、もう一度会えますよ!では、ご飯にしましょう 」 「 嗚呼…そうだな 」 此奴は俺が不要でも、蔑む事なく向き合ってくれた一人だ。 ゙ 晴哉様は、立派なαです!! ゙ そう両親に言ってくれたのもコイツだった。 傍にいてくれることに感謝しては、タオルを持って立ち上がり、先に脱衣場に行って歯磨きや髪型を整えてから、リビングへと戻る。 彼は夜行性じゃないから、帰ってきた時は爆睡してただろうし、 其のお陰で、俺が泣いてたのは知らないようで良かった。   「 朝ご飯は、和牛のステーキにしてみました。因みに私は、桜の蜂蜜です! 」 「 良かったな。そろそろ出る時期か 」 「 はい!ソースに入れてみましたので、食べてみてください 」 肉は、獣人になれない人の言葉も理解できないような…知能が低い、獣だけを育てて食ってる。 人間とは違って魚の種類も少なく、肉の種類も牛、豚、鶏しかない。 そんなイノシシ、アヒル、カモ、クジラとかの、種類を必要以上に変える必要も無いために、獣人達は決められた者だけを食う。 そして、獣人より更に食べないのが紫黒のような虫人。 特に彼は花を食べたり、蜂蜜を食べてるだけで満足する為に、今も喜んでスプーンで掬って口へと含んでいた。   そんな彼を見てると、穏やかな1日が始まるなって思う。 「 美味しいよ、紫黒 」 「 お口にあって良かったです。私も、この蜂蜜美味しいので…また買ってきていいですか? 」 「 嗚呼、沢山買うといい。御前の食費なんて…人を飼うより安い 」 人が犬猫をペットのように飼うように、獣人の中には人を飼う奴もいる。 俺はそんな趣味はないが、なんとなく聞いた話の金額を聞けば、紫黒の方がずっと安上がりだ。 なんせ、蜂蜜か花しか食べないし、花もベランダにこいつが趣味で植えてる花達で事足りるだろう。 「 晴哉様、見てください。ピンクのローダンセが綺麗に咲いてます。ん、おいしい! 」 「 嗚呼、綺麗咲いてるな…( 花をパクパク食べる様子は…理解できないがな…。美味しそうに思えない… )」   枯れたりしてきた花から食べてるみたいだが、それでもイチゴ狩りのように摘みながら食べる様子は、 ベランダにあるサラダバーみたいなんだろう… 虫人じゃないから、知らんが…。
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