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「そうだよ!恭臣の奴が何にも言わないからっ、だから俺の方から言ってやったんだ!」
酔いに溶けた双眸に数時間前の強い意思は見当たらない。
そこに在るのは、恋人にただ隣に居て欲しいと乞う純情だ。
俺なら、お前にこんな寂しい思いをさせないのに
俺なら、お前が望むままお前の隣に居てやるのに
言葉にできない “俺なら” を、ビールと一緒に飲み込む。
「そんな風に愚痴ったって仕方ないだろ?恭臣だって仕事なんだから」
「俺と仕事とどっちが大事なんだって話だよぉ…」
「和歩と付き合い始めてダメになった、なんて言われたくないから頑張ってんだよ」
「……湊音は俺よりも恭臣の味方すんのかよぉ~?」
「俺は和歩の味方だよ。でもな、痴話喧嘩するならどっちの味方もしねえよ」
「湊音の意地悪ぅ…依怙贔屓ぃ…」
テーブルに突っ伏して徐々に遠のく声とは相反して聞こえてきた寝息に、ポケットから取り出したスマートフォンで電話を掛ける。
「あ、恭臣?そろそろ和歩を迎えに来いよ」
『湊音、すまん。迷惑かけたな』
「ホントだよ。今度奢れよな」
『ああ、約束するよ。いつもの居酒屋か?』
「うん。和歩の奴、寝ちまったぞ」
『…悪いな。直ぐに行くから』
通話を切ったスマートフォンをポケットに仕舞い、向かい側でスヤスヤと寝息を立てる男の髪をそっと撫でる。
「…ったく、お前も見る目が無ぇよな」
ふわりと跳ねた髪は、それでも愛しく思えた。
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