11人が本棚に入れています
本棚に追加
「最初私もそれを思いました。どこかで殺害された被害者がいて、犯人は3年前に左耳を、そしてなんらかの理由で3年越しに害者の右耳を遺棄した。どっかにいるんですよ、被害者が。誰にも見つけられず……そう思えて仕方ありません」
膝に置かれた手は、年齢よりも老けて見える。小野寺から手帳に書き記していた資料を預かりアパートを辞したら、春先の風が首元に沁みた。
「……3年か。捜索願いも出されない遺体」
「耳を除いてな」
傾きかけた陽に目をいつもより細めた時宗が頷いて、停めていた車の扉に手をかけた時に、着信音がなった。
『小野寺には会ったか』
前置きもない、樫家の声だった。
「課長、はい。今出たとこで。取れましたか、捜査権」
『少々手こずったが、想定範囲内だ。それより面白いことが見つかった』
「トカゲの尻尾みたいに耳が切っても切っても生えてくる人間、とか」
『耳のない遺体が、17体あったんだ』
陽はもう、落ちかけていた。
□
人工石の灰色が四方をおおう建物に樫家はいた。廊下に踵の音を響かせ立ち止まったその扉をおもむろに開くと、鼻先を消毒の匂いがつつんだ。
「頼んだ件は、どうなった」
最初のコメントを投稿しよう!