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指定されたのは、築30年は経っているだろう古びたアパートだった。思わず呟いた時宗に苦笑いを浮かべた。
「馬か酒か女か、さあね。刑事だからって堅実とは限らんだろ」
錆が浮く外階段の手すりを見やりながら、小野寺の部屋に着いた。「こんなのしかありませんが」
そう言って茶を出してきた小野寺は、短く刈り込んだ髪型に幾らか弛みがあるものの、がっしりとした体格を地味な色の服装に包んでいた。
「どうぞお気遣いなく。あの、早速ですが」
「ええ、例のメールで伝えた件です。まず、これを」
そういうと、正座した脇から分厚い大学ノートをテーブルに乗せた。
「……これは小野寺さんの資料ですか?」
「ええまあ、気になってたもんで、どうしても事故なんぞで片付けられねえと思ったんで」
小野寺が開いたページには、写真が貼り付けられていた。
「耳、ですね」
「日付を見てください」
2029年11月21日ーーーー
「3年前? 今回の件は先月のことでは」
時宗の言葉に、小野寺が頷いた。
「誰も取り合わなかったが最初、この耳は3年前に見つかったんですよ」
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