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まさか……。
「全部、嘘だったのかい」
「全部じゃないよ。僕がスサノオ様の命令で君を迎えに来たのはホント。スサノオ様が死にかけてるのはウソ」
「ほとんど嘘じゃないか」
「それくらい言わないと一緒に来てくれないと思って」
「残念だったね」
鼻で笑ってやった。
私を騙すとはいい度胸だ。
オオトシは笑顔のまま、一枚の木札を差し出す。
「……何だい。それは」
「王宮への通行証。受け取ってよ」
「どういう魂胆だい」
「スサノオ様の命、君に奪って欲しいんだ」
聞き間違いではなさそうだ。
コイツは謀反を口にした。
「……自分が何を言ってるのか分かってるのかい?」
「最近のスサノオ様の横暴は目に余る」
「だから殺すのかい」
「君は父親の仇を取りたくないの?」
答えられなかった。
黙り込む私の手に木札を握らせて、オオトシは元来た方向へ歩いて行く。
何が嘘で、本当か分からない。
オオトシが本気で謀反を企んでいるなら、スサノオは殺されるだろう。
アイツは憎たらしいくらいに頭が切れる。
抜かりは無い。
これは私を王宮におびき寄せる為の罠。
私は国王殺しの罪を着せられ殺される。
もし、オオトシが謀反を企んでいなかったら?
本当に、スサノオが私に会いたがっているとしたら。
「私は……」
会いたい。もう一度。
彼が年老いて醜くなっていたとしても。
そして私は。
彼の喉に刃を突き立てる。
それが私の、愛の形だ。
【 完 】
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