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知らない人、ましてや、拾ってくれた人と待ち合わせなんて初めてのことだ。
緊張し、ソワソワしながら辺りを見回す私の目に、ミントブルーのシャツを着た学校帰りの男の子たちが映り込む。
海邦の制服を見るとまた落ち込みそうで、自分の足元に視線を落とした。
膝に貼ったピンクの絆創膏が目に入る。
彩ちゃんの趣味、可愛いなあ。私も女の子らしく、こういう小物とか揃えた方がいいのかな?
そういえば、久々に会った美優もネイルとかしてたし、と無造作に切りそろえられただけの自分の爪をみていたら。
急に日が翳ったように前方が暗くなった。
私の少し前で止まった黒いローファー、チェックグレーのズボンが目に入る。
その靴先から少しずつ視線を上げて、ミントブルーのシャツ。
そして、よく知る整った顔を確認し、心臓が凍り付いた。
「おい」
腕を組み、朝と同じように不機嫌な表情で私を見下ろしていたのは、朔くん……!!
一気にまた血の気が引いていく。
怒られる、絶対、また怒られる!
「すみませんでした~!!」
「逃げんな!」
条件反射で慌てて逃げ出そうとしたのに、肩にかけていたスクールバッグを引っ張られ、前に進めなくなってしまった。
「あの、本当に本当に人違いだったんです。知ってる人に似てて、でもよく見たら違って」
「その話じゃねえし……、とりあえず、ホラ。まずはコレな?」
こっち向けとバッグを引かれ、向き合う形になった私に差し出してくれたのは、見慣れたスマホ。
「私の、」
「そ、待てって言ったのに逃げたのお前だからな? そのせいで放課後に、わざわざこんなとこで待ち合わせるとか、ねえわ、超迷惑」
そういえば朝『待て!!』と言ってくれた朔くん。
スマホが落ちてることを知らせようとしてくれていたの!?
あの時、もし立ち止まってスマホを受け取っていたら、朔くんは駅に立ち寄らずに帰宅したんだろうし。
朝も今も、自分のせいで朔くんは、機嫌悪そうな顔をしているし。
私は、それにビビッてしまって、一刻も早くここから逃げ出したくて仕方がない。
逃げ出すには、どうしたらいいか、それは。
「拾ってくれて、ありがとうございました」
震える声を絞り出して御礼を伝え、朔くんの握る私のスマホに手を伸ばした。
そう、スマホを受け取って、御礼を言って逃げる、これに尽きる!
それなのに。
「え?」
朔くんは、スマホを持った手をひょいと空高く掲げる。
まるで私から遠ざけるように。
えっと、あの。
届かない、届きません!
ピョンピョン、ジャンプしても届きません!
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