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「ただで返してもらえるとか思ってる?」
ああっ、御礼の請求?
いや、これは、もしかして御礼じゃなくて脅し!?
「思ってません、何か御礼をしたい、のですが……、いや、御礼させてください、是非!」
「ええ? いいの? まだ何も言っていないのに。わー、ありがとねー」
棒読みのような朔くんの台詞と、見たこともない笑顔は、爽やかなイメージを悪い意味で一新させるような黒いものを感じる。
御礼ってなに? お菓子? お菓子とか? お菓子とか?
うう、お菓子しか浮かばない私の頭って。
もしかして現金だったり? え? 現金なの!?
「まず、お前の名前は? 嘘ついたら承知しねえぞ?」
「いっ、一ノ瀬 心陽です」
「東高の何年?」
「二年です」
「同じじゃん、俺と」
「そうなんです!」
「……、だからなんで、俺の学年知ってんだよ」
ああ、つい出てしまった自分の返事を恨む。
チッと舌打ちをして私を睨む朔くんに、しゅんと首をすくめた。
「今日のところはいいや、俺もこれから用事あるし」
「はい」
ため息をついた朔くんは、突然私のスマホを操作し出す。
「え、あの、待って」
一応、私にもプライバシーというものがありまして。
いや、だったらロックしておけという話でしょうけど、面倒臭がりで、ああああああ……。
心の嘆きをグッと堪えていたら近くでスマホが鳴る。
「発信履歴に俺の番号入ってるから、登録しとけ。言っとくけど、スマホの中見てもないし、いじってないからな?」
一瞬過った不安を解消してくれる朔くん。
ホッとして、何度も頷いた。
「明日、この時間、この場所な? 東高二年、一ノ瀬 心陽。逃げんなよ。きっちり御礼してもらうから」
ニヤリとした朔くんに、怯えた。
怯えているくせに、明日も会える、電話番号ゲットできた、なんて能天気な自分もどこかにいて。
振り返らずに歩いていく彼の背中に、気付かれないように何度も小さく手を振った。
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