【始まりの日】

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「今度またなにかあったら誘うから、私の連絡先、登録しといて?」  ニッと大きな口を横に広げて笑う姿が、千葉に住む親友の美優(みゆう)とダブって見えた。 『心陽はさー、自分から友達作れないから心配なんだよ』  つい先日、夏休みの終り。  札幌に戻る私に、何度も美優はそう言って心配していたっけ。  この教室で私のことを『一ノ瀬さん』じゃなく、下の名前で呼ぶのは彩ちゃんだけだった。  夏休み前、風邪で休んでいた彩ちゃんの机に、その日のノートを入れておいたのがきっかけ。  私にとっては、目の前の机がポッカリ空いていて、テスト前だったし、困るんじゃないかな、と思いついただけのこと。  気を使わせたくなくて、名前も記載しなかったのに。  翌日元気に登校してきた彩ちゃんは、机の中にあるノートに気づきパラパラと捲ったかと思うと。 『これ、心陽っちだよね? うわーん、なまら嬉しい~!』と私に抱きついた。  私の字を覚えていたらしい。  それから、彩ちゃんは何かと私を気にかけてくれている。  クラスメイトと連絡先を交換するのは、中二の時以来で、それが彩ちゃんでよかった。 「え、っと、じゃあ、」  連絡先を交換しようとポケットに手を入れる。 「あれ?」 「どうした? 心陽っち」  目の前でワタワタと鞄の中を漁ったり、ポケットの全部をパンパン叩き始めた私に彩ちゃんは怪訝な顔をし始めた。  ああ、やっぱりナイ。ヤバイ、どうしよう、どこに行った!? 「あの、お願いがあるんですが」  泣き笑いし始めた私の話に、彩ちゃんはクラス中が振り返るような驚きの声を上げた後、願い事をきいてくれた。
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