黄色い傘

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 あの人は、なぜこんな不完全な私と結婚したのだろうか。そしてまた、結婚3年目にして別れたいと言った、唐突で一方的な私の要求をなぜすんなりと受け入れることができたのか。  子がなかったというのは大きいと思うが、果たしてそれだからといって、生活が、人生が一変するであろう事態を、あんなにもすんなり受け入れられるものだろうか。私には未だにあの人の心情がよくわからない。  勝手な言い分ではあるが、当時の私は、少しも引き留めるそぶりを見せなかった相手に、ある種の不快感みたいなものを覚えないわけでもなかった。この人にはいったい、気持ちというものがあるのだろうか、と。  別れてからもしばらくは、そんな感情に縛られてもいたが、でも、今となってはきれいさっぱりしたもので、不快な感情は特に残ってはいなかった。  別れたのは31歳のときだったから、あれからもう、14年の月日が流れていた。でも、時の経過がすべてを解決したわけでもないはずだった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加