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あれは確か、夏美が小学5年の、ちょうど今頃の梅雨時期だったように記憶している。
突然の雨だった。下校の時刻とちょうど重なったのだ。私は丈の短い傘を片手に小学校に急いだ。校門の前に着くと、続々と子どもたちがこちらに向かって歩いてきていた。傘を持っていない生徒もちらほらいたが、持っている子と同じ方角の子は、その子の傘に入れてもらって、無事帰途に着くという景色が見られた。
10分ほど待っていると、ピロティのところに夏美の姿を見つけた。友達が1人、一緒だったが、その子も傘を持っていないようだった。ふたりは空を見上げて困惑気味に顔を見合わせていた。
そのうちに、駆け寄って行く私の姿に夏美は気づいたようだった。はっとして、顔に緊張が走ったのがはっきりと見て取れた。
次の瞬間だった。
夏美は友達の手をぐいっと引っぱって裏門の方へと駆けて行ってしまった。
再婚に踏み切ったものの、実の母親とうまくやっていけなかった自分が、果たして血のつながりのない子を上手に育てあげることができるのか、正直不安だった。だから、あの日、その不安が決定的なものになってしまったような気がして、ひどく落ち込んだし、しばらくその感覚が尾を引いていたようにも思う。
でも、私は諦めなかった。
私は知っていたから。
子にとって理想の親が何であるかを、よく知っていたはずだから――
私は実の母を映し鏡にして、親としてして欲しかったことを、あるいは、して欲しくなかったことを、もう一度よく思い浮かべたのだ。そうして私はようやく決心がついた。
たとえ何度はねのけられてもめげずに気長に構えていこうという決心が。
以来私は、根気強く夏美に向き合ってきた。
だからたぶん、今があるのだ。
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