0人が本棚に入れています
本棚に追加
時刻は夜8時。
弟が危篤だと連絡がきた。
一瞬の後。過去の出来事が頭を駆け巡り、出たのは乾いたような、消え入るような、笑いだった。そして思考は停止した。
スマホの画面を見つめたまま、居合わせた友人に荷物をつめたリュックを持たされ、半ば強引に車に押し込まれた。
駅まで車で1時間。新幹線で約2時間。電車に乗り継ぎ15分。駅から車で約10分。
ただ新幹線の車窓を眺めていた。
駅には、当然だと言わんばかりに迎えの車が来ていた。黙って乗車した。
運転手は義弟だった。
途中、母と妹を拾って車は一気に騒がしくなった。
3人は、泣くわけでもなく取り乱すわけでもなく、いつも通りだった。
いつも通りに「もうだめだ」と、口を揃えて言った。
「そんなこと、言わないでよ」と、不意にその場にそぐわしくない言葉が聞こえた。
それが自分の口から出たのだと気付くのに数秒かかった。それと同時に、急激に鼓動が速まった。
そぐわしくないその言葉は当然のように否定された。
「寿命だから仕方がない」と、いう母の言葉を、真っ白な思考のまま否定し続けた。
その度に鼓動は高鳴り、速くなっていった。
家に着いた。一目散に玄関に向かった。
リビングのドアが開いた。
「おかえり」
最初のコメントを投稿しよう!