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第十七話 真犯人の嘘
「な、なぜ私が……? 彼女とは古い友人ですし、彼女を手に掛けるなんてそんな恐ろしいことを、聖職者の私が考えるわけがありません。なにかの勘違いではありませんか。なんの証拠があるのです」
レイモンド牧師は突然名指しをされて、肩をすくめると、呆れたようにターナー警部を見た。
「レイモンド牧師、貴方は我々に二つの嘘をつきましたね。用意された部屋は、ナンシーさんの隣の部屋だと言っていましたが……。メイドに聞いたところ、貴方はアメリア夫人の病状を見るために、二階の客室に変えてくれと頼んだそうですな。そして貴方は、翌朝ジョアンナ夫人とともに部屋を訪れ、第一発見者になりました。貴方は我々やジョアンナ夫人に、あの部屋が密室だと言っていましたが、急いで鍵をこじ開けたり、押し入った跡はなかった」
「そういえば……、私がジョアンナ夫人に呼ばれ彼女と共に鍵を探して部屋に向かうと、もうすでに寝室の扉は開けられていました」
ハリー弁護士の言葉に、レイモンド神父の顔は青ざめていく。しかし、それでもターナー警部に楯突くように言った。
「ナンシーは遺書を書いていたじゃないか。彼女は自殺だったのでは?」
「僕がナンシーさんの遺書を鑑定しましたが、彼女の筆跡でした。けれど、非常に焦りを感じるような文面で、彼女の書く文章の癖とは異なります。おそらく、貴方に脅されて書いたのでしょう。あの文章の癖が誰のものか。僕は、アメリア夫人へ宛てられた貴方からの手紙を見て確信したんです」
レイモンド牧師は、二人を渋い顔で見ていた。
「あんたはあれから、ナンシーさんに脅迫され彼女を教会の裏に呼び出した。そして部屋で遺書を書かせ、絞殺して自殺を偽装したんでしょう。私は彼女の遺体が見つかったときに、教会の庭にすずらんの花が咲いているのを確認したんですよ。いいかげん観念しろ」
ターナー警部の言葉に、レイモンド牧師はとうとう観念したようにしてソファーにもたれかかった。
「――――彼女の死がもっと早ければ、ナンシーは死なずに済んだ。彼女とは長い付き合いでしてね。私にとってアメリアは憧れの女性でした。私がエリートの医者にでもなっていれば、彼女に求婚したでしょうが、私の両親は厳格で牧師の道を選んだのです。彼女は、実業家のジャック・オットー氏と結婚しました。未亡人になったときも私は彼女に友人として寄り添い結婚を申し込んだのですが……断られました。夫を亡くしてから、幻覚を見るようになっていましたしね。私は彼女をずっと愛していた。だからカッとなって殺したんだ」
警官たちが、レイモンド牧師の背後に回ると彼の手を掴んだ。
「見えすいた嘘をつくな! アメリア夫人と結婚すれば、もっと遺産が手に入ると思ったのですか。貴方がお金に困っていることを夫人は知っていましたよ。当初の遺言書に教会への多額の寄付も書かれていたのに……。貴方が私利私欲のために、教会の金を横領していたことを知って、寄付を取りやめたんだ!」
ハリー弁護士が、怒気を荒らげて言った。
なぜ彼がこれほどまで怒るのか、驚く相続人たちを見ながら、ターナー警部はハリー弁護士の背中を叩いた。
「あんた、偽の婚姻届まで偽造していたそうですなぁ。まぁ、その悪巧みも叶わずだったが。さて、ジョアンナ夫人。貴女は当時まだ幼くて覚えていないでしょうが、アメリア夫人には私生児がいたのです」
「えっ……知らないわ。お義姉さんに亡くなった娘以外に子供がいたなんて……でも……たしかにお腹を隠していたわ」
「夫人は娘と義理の息子を亡くしてから、里子に出さなければいけなかった子供を探し出し、援助していたんですよ。その子の名前はハリー。彼はアメリア夫人の息子です。そして父親は牧師になる前の彼だ」
その言葉に、一同はざわめく。ジョアンナ夫人とレイモンド牧師も驚いたように目を見開いた。
驚愕した表情のまま縛られたレイモンド牧師は、引きずられるようにして出ていった。
「さぁ、ハリー弁護士。遺言書の開封をしてください。私たちは彼を連れていきます」
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