12人が本棚に入れています
本棚に追加
「それは分かっているけど、やめられないものはやめられないよ。だから犯罪者にとって、殺人はやめられないんだろうな。」
「麗子ちゃん、結構深い事言いますね・・・。」
「いや、推理小説を書いていると『いつか自分が殺人を犯してしまうのではないか』という疑念に囚われる事があるんだ。私は『血染めのシャツ』で10人の犠牲者を書いてきた。だから、正直怖いんだ。」
「麗子ちゃんは大丈夫だよ。殺人を犯したりはしないって信じてる。それが悪いことって分かっている上で小説を書いているのも知っているし。」
乃愛ちゃんが私の手を握る。
乃愛ちゃんの体温は、少し冷たく感じた。
「乃愛ちゃん、あなたって本当に優しいのね。」
「エヘン、これぐらいアシスタントとして常識ですよ。」
大阪市西成区。
そこは大阪市でも有数の治安の悪さを誇るスラム街である。その治安の悪さは、かつて治安が悪いと評判だった南アフリカ共和国のヨハネスブルグに倣って、「日本のヨハネスブルグ」と呼ばれることが多い。
そして、西成の簡易宿泊施設は、日雇いの労働者が生活の拠点として利用している。もちろん、己が生きていくためである。
ある日、簡易宿泊施設「青鷺」で、労働者の男性が襖の中で奇妙なゴミ袋を見つけた。
「こんなとこにゴミ袋置かれたら迷惑や。それに、燃えるゴミの日は月曜と木曜や。ところで、この袋、何が入っとるんや。ん、何か臭うな。それに重い。まるで人間一人背負ってるようや。う、うわあああああああああああああああッ!」
「何だ何だ、やかましな!」
「ふ。袋の中から手、手ぇだけが落ちてきたんや!」
「ま、真逆・・・。」
「せや。これは最近世間を騒がしとるっちゅうバラバラ死体や!」
「これは警察を呼ばんとアカン!」
――袋の中には、寺田真澄だったモノがバラバラの状態で入っていた。
「被害者は寺田真澄。29歳。職業は医師。在住は大阪府吹田市だが、梅田の病院で働いている。」
「どうして・・・。どうして真澄くんがバラバラ事件に巻き込まれるの・・・。」
「奥さん、気持ちは分かりますが目の前の現実を受け入れましょう。」
「信じられません。私は殺人鬼に復讐がしたいです。」
「こっちだって犯人が分かっていないんです。だから、正直お手上げ状態です。」
「このまま時効になってしまうんでしょうか。」
「いや、時効にはさせませんよ。我々大阪府警にお任せください。」
「分かりました。あなたたちの言葉を信じます・・・。」
寺田真澄の奥さんは泣いていた。
――僕たちだって正直泣きたい気分だ。事件は混迷を極めているから。
最初のコメントを投稿しよう!