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当然ながら、西九条悦子、もとい九条涼子は抵抗の顔を見せる。
彼女の顔には、憔悴した表情が浮かんでいた。それは、女優の顔ではなく、1人の犯罪者としての顔だった。
私は更に話を続ける。
「残念ながら、あなたが犯行を犯したのは紛れもない事実だ。あなたと芦原あかねは小中高と同級生だったと中学校の教師から聞いている。つまり、あなたは友人をバラバラにして殺したという計算になる。大切な友人に対して、なぜそんなことをしたんだ!」
「あははははははははははははははははっ!私は、自分が女優であることが許せなかったんだ!10年前に『里見八犬伝』の伏姫役が大当たりして銀幕の世界に飛び込んだ。そして、その年に日本アカデミー賞の新人賞を受賞した。ここまでは良かった。けれども、私は自分の職業が女優であることを恨んだわ!数年前から、何一つ自由が許されない『女優』という職業に嫌気が差していた。そこで、大ヒットドラマ『殺人倶楽部』の犯人のように自分でバラバラ死体を作ろうと思った。私は『殺人倶楽部』でバラバラ死体を作り上げる犯罪者の役をやっていたから、手順は分かっていた。まず、相手の鼻と口に薬品を嗅がせて気を失わせる。そして、相手の躰をぐちゃぐちゃにしていく。最後に、ゴミ袋に死体を詰め込んで適当な場所に放置する。これでバラバラ死体の完成よ!もちろん、指紋が付くと犯人の面が割れてしまうから手袋をした状態で犯行を重ねたわ。ほら、この通りよ!」
九条涼子がポケットから取り出した黒い手袋をテレビ局のカメラに翳す。
そして、九条涼子は私の喉元にナイフを突き出した。
「探偵を名乗っていますが、あなたなんて死んでしまえば良いんですよ!他の死体のようにバラバラにして殺してやるッ!」
「あなたに私が殺せるというのですか。それは滑稽だ。」
「私は殺人者よ!人殺しなんて厭わないわッ!」
正直、私の心臓の鼓動は早鐘を打っていた。
目の前の犯人に殺されるのだから当然だろう。
私は、殺される覚悟で瞼を閉じた。
「探偵さん、お手上げですね。なら、私が探偵さんを殺すだけだッ!」
そうか、全国ネットに私が殺される様子が晒されるのか。それは私らしい最期だ。それで死ねるのなら本望だ。
その時だった。
ドアが開く音がした。
――ドアの向こうには、赤城刑事と神結刑事が手錠を持って待ち構えていた。
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