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だから、最近西宮のハローワークで仕事を探したりもしている。
これでも私は神港大学出身だ。つまり、学歴としてはそこそこ高学歴である。だから仕事も困らないだろう。そう思っていた。けれども、現実はチョコレートのように甘くなかった。
いくらITバブルと雖も、私はパソコンを「小説を書くための道具」としか思っていない。だからIT系の仕事に就職しようにも、HTMLタグは打てないしプログラミングも出来ない。このままITの世界に飛び込もうにも、私は経験値不足だったのだ。だからどこかのIT会社で事務員として働けないか。そう思っていた。
でもまずは超大作にして最終作になるかもしれない『パンドラの匣』を書き上げる。そして売れ行きをじっと見つめる。それしか出来ない。
そんな私が管轄外である筈の大阪府警に頼まれて連続バラバラ殺人事件の解決を頼まれることになるとは、この時は思っていなかった。
2001年1月10日。
ふと、テレビで正午のニュースを見ると大阪でショッキングな事件が発生していた。
「1月10日午前10時頃、大阪城公園でバラバラにされた男性の死体が発見されました。大阪府警が死体の身元を調査したところ、大阪府吹田市に住むシステムエンジニア、大坂亮一であることが判明しました。」
「麗子ちゃん、怖い事件だね・・・。」
「神戸でも数年前に似たような事件として子供を狙った連続猟奇殺人事件が起きたけど、凶悪さは大阪の事件の方が酷いな。何せ大人の男性をバラバラにした上でゴミ袋に入れている。そして大阪城公園のホームレス街に放置だ。とても人間がやる犯罪とは思えない。」
「神戸でもこんな事件が起こらなきゃいいけどね。」
「ああ、こういうのは大体模倣犯が現れる。そして、それを防ぐのが警察の役割だ。」
「なるほど。兵庫県警にしろ、大阪府警にしろ、今回の事件は警戒していそうだね。」
しかし数時間後、バラバラ殺人事件の頭に「連続」が付くことになったニュース速報が入ってきた瞬間、私の心臓の鼓動は高鳴った。
「ニュース速報です。午後6時頃、阪急十三駅前でゴミ袋の中に入ったバラバラ死体が発見されました。被害者は大阪市淀川区に住む中学校教師、桜宮和子と見られており、警察では数時間前に大阪城公園で見つかったバラバラ死体との関係性を調べています。」
「・・・。」
ショッキングな速報に、乃愛ちゃんは黙り込んでしまった。
「十三って、尼崎との境界線だっけ。」
「確かにそうだけど、この事件が淀川を渡って尼崎に来ることなんてあり得ないよね。」
「そうだったらいいけど、そういう可能性も考えておかなければならない。」
しかし、不謹慎なことに私の中では推理の血が滾っていた。
なぜならば、私の裏の顔は探偵だからだ。
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