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1999年12月に神戸で発生した連続爆弾事件を解決に導いたのは紛れもなくこの私である。そして、ソレをモデルに現在書き上げている小説が『パンドラの匣』である。だから実際に起こった事件をモデルに書いているのは紛れもない事実だ。
私が解決した事件はそれだけではない。例の震災の直後に長田区で発生した仮設住宅連続不審死事件を解決に導いたのも私である。
あの事件に関しては、たまたま私が犯人を目撃しただけであったが、世間からは「震災禍に現れた探偵」として持て囃されるようになった。
それから、1997年に発生した子供を狙った連続猟奇殺人事件、通称酒鬼薔薇聖斗事件の推理にも関わるようになった。残念ながら最終的な解決は兵庫県警に委ねる形となったが、何れにせよ私が「神戸のホームズ」として呼ばれるようになったのは紛れもない事実である。
そして1998年に実際の事件をモチーフとした小説家としてデビュー。処女作である『血染めのシャツ』は溝淡社ノベルスに於いてミリオンヒットを記録することになった。しかし小説家としての私のピークはこれが最初で最後だったのだ。なぜなら『血染めのシャツ』の続編である『盲腸の馬鹿』も『今日の夢』も売り上げがパッとしなかったからだ。
そういう事情もあり、例の神戸連続爆弾事件が発生した1999年はというと小説家としての私よりむしろ探偵としての私のほうが目覚ましい活躍を見せていた。
相次ぐ爆弾魔の挑発に、関西ローカルと雖も私のテレビへの露出は増えていった。しかし肝心の小説は売れないまま。私はこのままでいいのだろうか。そう思いながら毎日を過ごしていた。
そして連続爆弾事件が解決した2000年1月、探偵としての私は完全テレビからに姿を消すことになった。
それから、『血染めのシャツ』の印税で芦屋の一等地に仕事部屋を買い、引き籠もる日々が続くようになった。もちろん、新作小説のアイデアを考えるためである。
来唐乃愛がアシスタントとして住み込むようになったのは丁度その頃である。理由は簡単であり、彼女がたまたま芦屋に住んでいたからだ。
「麗子ちゃん、芦屋に仕事部屋買ったんだって?」
「うん。西宮じゃちょっと落ち着かないから。」
「なんだか麗子ちゃんらしいなぁ。」
「ところで、仕事場ってどこら辺にあるの?」
「うーん、芦屋川の上流辺りかな?」
「私の家の近くじゃん!冷やかしに行ってもいいかな?」
「どうせ小説家としての私は暇だしいつでも来たらいい。お茶とお菓子ぐらいは用意するからいつでも来るといい。」
「ありがとう。早速行かせてもらうね!」
「いや、いきなり来いとは行っていないけど・・・。まぁいいか。」
こうして来唐乃愛は勝手に私の仕事部屋に住み着くようになった。
それからというもの、私は悩んでいた。
新作小説は実際に神戸で起こった事件を題材に書くべきだろうか。それとも、ちょっと暈して東京を舞台に置き換えるべきなのか。
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